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彼が上着の一部を脱ぐと、爆弾が巻き付けられていた体に僕たちはギョッとした。本当に死ぬつもりだった。この爆弾で。
「今日、死ぬつもりでした。誰もいない場所で。でも首はつれない。僕は臆病だから、そんなことはできなかった。即死がいいんです。だから川に流されるのもダメ。飛び降りるのは、地面に辿り着くまで時間がかかるからダメ。火事もダメ」
「だから爆弾……」
「僕は幸運にも大学時代は化学を専攻していてね、こういう知識が豊富なんですよ。薬を調達するのは大変だったし、バレるんじゃないかってビクビクもしていたけれど、死への願望が強かった」
原田さんは目からポタポタと涙を流しながら「妻に会いたいんです……」と訴えた。
「誰も巻き込みはしません! だからいいでしょう? 死なせてください! 僕はもう十分生きました!!」
老人の涙の訴えに僕は悲しい気持ちになる。
「原田さん」
僕は優しい口調で彼に語り掛けた。
「ダメです。死んじゃダメです。誰も巻き込まないからと言って、死ぬのはダメです。もう十分生きたからと言って、死ぬのは違います。死というのは自分で決めてはいけないんです。死というのは突然来るものなんです」
「でも……」
「ダメなんですよ、自分で命を終わらせちゃ」
原田さんは黙る。
「人間はいろんな選択をして生きる生物です。でもね、死というのは絶対に選択してはいけないんですよ。そもそも人生の選択肢にはないんです。だって死は突然訪れるものだから。予期せぬことだから。だから選択肢には最初から入っていないんです。死を選択するって禁忌を犯すことと一緒なんです。それは年齢に関係なくです。歳をとっているからもう死んでもいいでしょ、というのは違います。年老いていようが、若かろうが、同じ人間です。何も変わらない。死を選んじゃダメなんです」
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