それ

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 人は見た目にはよらない。  そう感じたのは、僕が警察官になって2年目のことだった。警察官と言っても警察署ではなく、交番勤務ではあるが。日々パトロールをしているうちに、スリや万引き犯と相対することがあるが、そういう人たちはとても悪そうな顔をしている訳ではない。普通にいる人間で、優しそうで、罪なんて犯せない臆病そうな人間たちだ。男も女も関係ない。  逆に悪い顔をしている人間ほど、良い人間だったりする。迷子を助けたり、道端に捨てられた子猫を助けたり。そういうのを見ると、僕は人は見た目にはよらないんだなと痛感させられた。  いじめっ子だってそうだろう。これは僕の経験によるものだが、可愛い子ほどよく人をいじめるし、性格が悪い。何でかそういう子たちは自分が可愛いと分かっているからか、プライドが高く、指図されることを認めない。自分を一番だと考えている。  イケメンだってそうだ。やはり顔が良い人間は性格が悪い。まぁ、あくまで僕が出会ってきた人たちが全員そういう人しかいなかっただけで、世の中は広いから性格のいい人間だっているかもしれないけれどね。  僕はそんなことを考えながら、今日もパトロールに出掛けた。白バイではなく、自転車にまたがってペダルを踏む。キョロキョロと不審者がいないかを確認しながら、乗り慣れた道を進んでいった。  小さな町だから、皆知り合いだ。僕が通ると、皆が挨拶してくれた。こういう繋がりも警察官として大事だと僕は思っている。ご近所づきあいが盛んな地域では、空き巣が起こりにくいと言われている。犯罪防止の為にも、こうした繋がりは大事にしたい。  「こんにちはー」と言いながら漕いでいると、数m先を歩いていた白髪交じりの中年男性が突然転んだ。僕はすぐに自転車を止めると、その人に駆け寄った。 「大丈夫ですか、原田(はらだ)さん!」
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