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終業式から二日後のクリスマス当日。ニュースでも言っていた通り今日はホワイトクリスマスだ。
残酷にもあの頃の景色と重なって咲良は朝から憂鬱な気持ちでいた。
「咲良ー?今年も行くの?」
「うん、行くよ」
「辛かったらやめていいんだからね……?」
「お母さん心配しすぎー、行ってきます!」
当事者の娘よりも親が涙目になって心配している。そう、今日はクリスマスで男の子の命日でもある。
咲良は毎年欠かさず花束を手向けている。あの日から男の子の存在を忘れたことは無い。毎年、祈りを込めて花束を捧げている。
「私ね今でも貴方のことが好きなんだよ。大人になった君はどんな姿をしているんだろうって想像してる。貴方を忘れた日なんて無いんだよ。だからさ、お願いだからそろそろ返事を聞かせてよ……」
ホワイトクリスマスにピンク色に輝く大きな桜の木。どこまでもあの頃のままで、簡単にあの時の情景を思い出してしまえる。
雪の重みで耐えられなくなったピンク色が地面に落ちて濁っていく。まるで咲良の心情を写し描いたかのようだ。
咲良は桜の木の下に花束をそっと置いた。この場所には二人のたくさんの思い出が詰まっている。これから先、何年後かの未来でも咲良はこうして涙を流すだろう。
二人が幸せだったあの頃を思い出し、いつまでも心の内に秘めておく。それが、残された咲良に出来る唯一の方法だった。
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