4 凛、お父さんになる

4/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
 それは奇跡のような瞬間だった。まるで映画のワンシーンのようだ。親子の愛が、その瞬間だけ恐怖や不安、孤独に打ち勝ったのだった。抱きしめている間凛は、自らの意識が引き潮のように、ゆっくりと静かに消えていくのを感じていた。  奇跡の時間は長くは続かなかった。凛はりおから手を離した。まだいわなければいけないことがある、とりおの父親は思った。 「お父さんがなんで死んだか、りおは知らないよね」 「知らない」りおが答えた。  りおの父親は躊躇するそぶりを見せたが、やがて話し出そうとした。その時、下の階で音がした。  いきなり正気に戻された。 「りお?」りおの母親の声。  凛はすっかり自分自身に戻っていた。この部屋から出なきゃ。焦った。いきなり、根拠不明の罪悪感が降りかかってきた。部屋から出ようとする凛を小さな手が阻んだ。振り返った。 「ほんとは、知ってる」りおがいった。 「なにを?」 「お父さんがなんで死んじゃったか」 「りお? どこにいるの?」りおの母親――ダイナー店主の声がする。 「ほんとは知ってるのに、いえなかった」とりお。 「りお?」と下の声。 「そうなの?」 「お母さんが殺した」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!