1 お父さんはいないの

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 ダイナーは平屋で、アメリカの田舎町から移設してきたみたいにな店だった。  アメリカンダイナーを謳うレストランはここ日本にも多くあるが、ほとんどは五十年代のアメリカのイメージを引きずったような、レトロ趣味かつニセモノっぽい――かえってそれが魅力になっていることもある――店がほとんどだ。大抵そんな店の駐車場には年代物のアメ車、店内には不自然なほど真っ赤なベンチシート、ジュークボックスから流れるBGMは往年のロックンロール。だがこの店は違った。全体が木目調の落ち着いた内装で、レトロ趣味など皆無だった。アメ車もジュークボックスもなければ、コーラの看板もない。おしゃれとはいい難い。料理もまたどれも地味。凛は一度メンフィスに行ったことがあった。あの町の外れで見かけたダイナーは、こんな感じだったかもしれない。いや、もうちょっと全体的に汚かったかもしれない。ここは綺麗だ。  その店は凛の勤め先の徒歩圏内にあった。ただ、凛は今日までこの店を知らなかった。転職してきたばかりだった。
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