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5 誰の真実?
凛は催眠術にかかったみたいに、りおの目に釘づけになった。
「知ってる。わたし、見たから」
「なにを?」
「お父さんが死ぬのを」
「……からかってる?」
りおの様子を見ればわかる。残念ながらふざけてなどいない。りおは完全に、大人の顔に戻っていた。
りお?と階下で母親が捜す声が聞こえる。
「知るならいましかない」りおは使命感にかられた聖者のような仕草で、人差し指を差し出した。
「知るって?」
「指を舐めて」
「え?」とはいったものの、りおの意図はすでに理解していた。
「さっき、お父さんのもの舐めたでしょ?」たじろいでいる凛に向かって、「だからお父さんになれた」
返す言葉がなかった。
今日はずっと変な夢を見てるような気分。子供の頃に見た悪夢の感覚。悪酔いの記憶。
選択肢はない。凛は舐めた。
りおの脳内の光景が、凛の中にありありと移植される。それは倍速で視聴する映画のようだった。時間は短縮され、感覚は凝縮されている。りおのトラウマ体験が塊となって押し寄せてくる。
りおの小指が離れた瞬間、凛は危うくのけぞりそうになり、慌てて態勢を整えなければならなかった。
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