2 おめめ

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2 おめめ

 凛はすぐに落ち着きを取り戻した。なんてことはない、子供じみた悪趣味なキャンディだ。 「変なキャンディだね」彼女は、女の子にわざとらしく笑いかけた。 「これね、キャンディじゃないの」 「そうなの?」 「うん、だって、溶けないし味もないから。そんなのって、キャンディじゃない」  凛はまだ笑っていたが、居心地が悪くなっていた。 「これはね、お人形のなの」 「おめめ?」 「そう」といって女の子は、皿の上のプラスチック製の目玉を指先でつつきはじめた。唾で濡れた目玉が妙に生々しい。たしかに女の子のいう通り、これはキャンディなんかじゃない。 「それ、美味しいの?」 「全然」と女の子は首を横に振る。 「じゃあなんで舐めてるの?」 「お人形の気持ちがわかるから」 「お人形の気持ち?」 「おめめを舐めれば、その人になった感じがするの」 「お人形のおめめを舐めれば、その人形の気持ちがわかるってこと?」小さい子って、なぜか唐突に残酷なことをしたりするんだよな、と彼女は思った。きっと、これはその類の悪い冗談だろう。
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