赤い手袋

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雪の日の暮れは早い。仄暗くなってきたので、家に帰ることにした。 雪はまだ降り続いている。 帰ろうとして、手袋がないことに気がついた。 「手袋?さわちゃんの赤いのだよね?」 「うん。」 そう言えばさくらちゃんの家に来る時にはつけていなかったような気がする。ぬれているから上着のポケットに入れていた。 そこにあるはずの手袋は、なかった。 いつもの上着よりポケットが浅かったのを思い出した。 「4人で探せば見つかるよ!」 あきちゃんが元気よく言ってくれたので、またかまくら(っぽいもの)のところまで戻ってきた。 しかし、あれから小一時間の間にまた降り積もったせいなのか、赤くてわかりやすいはずの手袋は見つからなかった。 そういえば、ポケットには鍵が入っていたはずだ。 そうだ、上着のが浅いから、ズボンのポッケに入れ直したのだから、大丈夫。 …ない。 ない。 ない? 「どうしよう、鍵がない。」 「おい、さわ、大丈夫か?」 私の半泣きの様子を見てマサトが声をかけてくれた。 あの目立つ赤い手袋がみつからないのだ。鍵なんか見つかるはずがない。 それでも、みんなは半泣きのわたしよりも熱心に鍵を探してくれた。 「さわー?」 母の声がした。 「ママ!」 「あ、おばさん!おじさん!」 マサトが駆け寄って鍵を探している事を伝えた。 「落としたのはスペアの鍵だろ?ママ鍵持ってるよな。」 父が母に尋ねると、母はあっけらかんと言った。 「あら、さわに渡してあるからワタシは持ってないわ。」 え? 「マスターキー出してもらおう。」 父は慌てて管理人さんのところへ行ったが、もう既に今日は帰宅していてマスターキーは使わせてもらえない事がわかった。管理人さんはいつもそこに居ると思っていたさわはびっくりした。住んでいるわけじゃなかったんだ。 詰みである。家に入れない。 結局、お隣のマサトのお宅にお邪魔して非常時用に破れるように作られているベランダの仕切りを蹴り破らせてもらい、たまたま鍵をかけていなかったリビングのサッシを開けて家に入る事ができた。 のちの「ベランダ破壊事件」である。
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