赤い手袋

6/7
前へ
/7ページ
次へ
「おはよう、さわちゃん」 翌朝、いつもより早めに出て自転車置き場までの道のりを雪の思い出に耽って歩いていると、さくらちゃんが声をかけてきた。 彼女は県立で一番歴史のある女子高の3年生だ。紺のダッフルコートにグレーのマフラーをしている。 「おはよう、さくらちゃん」 「雪、今日とけるかなあ。」 「ひなただと、とけるかもね。」 「あの時は3日くらいで溶けたよねー。」  あの時。 そう、ベランダ破壊事件の後、数日して赤い手袋が、見つかった。やはりかまくら(っぽいもの)の近くに落ちていたのを、マサトが見つけたのだ。鍵は、雪が完全になくなったころ芝生の中から管理人さんが見つけてくれた。 「マサトくん、気にしてたもんね。」 「気にしてた?」 「うん。あれから毎日探してたよ。ベランダから見えたんだけど。」 そうだったのか。それは知らなかった。 「おはよー。さわちゃん相変わらず赤い手袋はめてる。」 あきちゃんも出てきた。彼女は高専生だ。カーキの中綿ジャケットに細身のデニムに、オレンジのリュックを左肩にかけている。短めのショートボブがちょっと男の子みたいに見える。 「あー、これ、編んでみたんだ。アラン模様の練習。」 そう、まだ私は赤い小物を身につけている。自転車通学に手袋とマフラーは必須。ちょっと良い毛糸を選ぶと、同じ赤でもシックな色が見つかるのだ。そして、紺のコートに赤は映える。 「あれ、かまくらっぽいものメンバーが揃った。」 あきちゃんが笑った。 マサトがでてきたのが見える 「さわちゃん、ダンナにはマフラー編んだの?」 「は?」 「そうそう、一高いけるのにさわちゃんと同じ高校受験したんでしょ?」 「え?」 なんなんだこの人達は。訳がわからない。学年違うのになんでそんな情報が回るんだ。確かにマサトは賢いけど、一高行けるほどとは知らなかった。というかなんでダンナなのか。小一時間問い詰めてやりたいがそれでは遅刻する。 「おー。久しぶりに揃ったなー。おっはよー。」 マサトは平和な顔をしてやって来た。 先ほどの会話の流れがおかしかったので、空気を打ち消すようにこちらから声をかける。 「今日は早いね。」 「うん、シャトル乗らなくちゃいけないから早めに出た。」 「自転車は?」 「昨日パンクした。ギヤもおかしいからみてもらうことにしたら、部品取り寄せでちょっとかかるって。」 「雪で見えにくいから、なんか踏んだかな。」 さくらちゃんとあきちゃんはにこにこしている。 あの。 「さわも今日はシャトル乗らない?」 「えー?」 「たまにはいいじゃん。揃うのはひさびさだし。4人でJRの駅から乗って行って、俺とさわは途中でシャトルに乗り換え。」 まあ、間に合うけど。ちょっと交通費かかるけど。確かに小学生の時のように揃うことはなかなかない。 「決まり。」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加