余命7日間の恋人

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 やがて、仕事がなくなった者は、[消費者]という役割を持たされることとなり、国から月々一定額の補助が受けられる、『ベーシックインカム制度』が導入された。 [消費者]は、とびきりの贅沢はできないが生活は保障され、無料で娯楽を楽しむことができる。やることといえば、アンケートに答えるくらいだ。  ただ、のんびり生きているだけで生活できる[消費者]は、幸せだと思うかもしれない。しかし、働けないことで精神に支障をきたした者も多い。  人には、『働きたい』という本能、つまり『労働欲』があるのだ。  多くの仕事がなくなった一方で、『やはり人の手と心が通っている方が良い』と思わせる仕事、たとえば、調理師、美容師、看護師、マッサージ師など、所謂『手に職』のある仕事が求められるようになった。 『労働欲』が強い人たちは、そうした資格を奪い合うように取得して、意気揚々と店を始めていったのだが、いかんせん、高いに競争率だ。  商売として生き残れず、潰れてしまった店も多い。  雅也もその一人だった。  彼は、近所に小さな店を構えていた美容師だ。     *  あれは、今のプロジェクトがスタートした頃のこと。  私は仕事に疲れ切り、なんとか食事を摂るものの、髪を洗う気力がなくなっていた。  美容室で洗髪してもらい、ヘッドマッサージもしてもらいたい。  そう思った私は、引き摺るようにして家を出て、近所の美容室へと向かった。  美容室が溢れている昨今、予約などしなくても入れる店がほとんどであり、私はふらふらの状態で近所の美容室のドアを開けて、驚いた。
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