余命7日間の恋人

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『いらっしゃいませ、一美さん。お久しぶりです』  若い美容師は、私を見るなり、即座にそう言ったのだ。  たしかに私はこの店に来たことがあるが、一年以上前であり、たった一度きり。 『私のこと、覚えていたんだ?』 『ええ、いつもスーツ着て歩いているでしょう? カッコいいなぁ、って憧れていたんです』  彼はそう言って、八重歯を見せた。  美容室に頻繁に行くのが面倒という理由で伸ばしっぱなしの髪は常に一つにまとめている。女にしては高い身長であり、化粧っけがなく、いつもスーツで眼鏡を掛け、淡々と仕事をこなす私は、いつしか『冷血女史』と囁かれるようになっていた。 『カッコイイだなんて、そんな……』 『カッコイイっすよ。一美さんを見ると、俺も背筋が伸びる気持ちです』  その後、受けたヘッドマッサージがとても心地良かった。  いちいち褒めてくれる雅也の言葉がとても嬉しかった。  彼の笑顔がとても可愛かった。  とても単純なもので、私はその日、雅也に恋をした。  美容室の前を通るたびに、胸が高鳴り、時間を見付けては、頻繁に通うようになった。  これまでの人生、努力で夢を叶えてきた私だが、恋愛に関しては、そう上手くはいかない。  勇気を出せず、気のある素振りもできなかった。
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