1章 夫の粘着

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そう…智則さんは普通に粘着していきているんです。 普通に勤め先の店の前を通過していったり、遅番の帰りにあとをつけてきたり…。 今の住まいは出入口にカメラがあるんですが、そこにも不審な男性が映っていることがあったそうです。 それと、別居後に全部変えたフリーメールアドレスにも、智則さんから毎日メールがくるんです。 「君のことを毎日思っています。帰ってきてください」 「ずっと君を愛しています。悪いところは全部直すから…戻ってきて欲しい」 こんなメッセージばかり送ってくるので、困ってしまいます。 保管だけして、一切返信はしていないけど…。 1年間で6回メールアドレスを変えても、必ず見つけてメッセージを送ってくるから本当に怖い。 ブロックしてもなぜか送ってくるから本当に恐ろしい…。 こんなことを龍彦に話すと… 「仕事、変えた方がよくない?」 「え?やっと慣れてきたのに…」 「水沼さんが、この辺をウロウロしているのなら、住まいも変えた方がいいのかもしれないよ?」 「そんな…」 危ないかも…ってことはなんとなく分かってはいた。 でも、いざ行動に移した方が良いと言われると、また引っ越して仕事探してといったことが大変になっちゃう。 「たっちゃん(龍彦)と離れちゃうのが、一番嫌だな…」 「そういってくれるのは嬉しいけど…沙絵ちゃんの身の安全の方が重要だよ。最悪はシェルターにかくまってもらうってのもあるから」 「うん…」 シェルターは入ってしまうと、周りとの接触を一切禁止されてしまうから、本当に最終手段としてといった感じで考えていました。 やっと友達とも普通に会えるようになって、最近流行り始めたリアンティ(架空のSNS)をはじめて充実した日々を送りだしたのに、それをまたリセットなんてしたくなったんですけどね。 「沙絵ちゃん、喫茶店でコーヒーでも飲まない?」 美味しいイタリアンを堪能した後に、もうちょっと私たちはお喋りしたいなって思って、私もOKしました。 龍彦と付き合うようになってから、いつもいく喫茶店があるのですが、そこに向かっている途中、龍彦が足を止めたんです。 「沙絵ちゃん、待って」 「……リアンティやめるわ…」 さすがに怖すぎて、友人に事情を説明し、連絡を取るのはLINEに戻し、数日後にリアンティをやめました。 リアンティをやめてホッとしたのもつかの間。 智則さんの本当の恐ろしさを知ることになるとは、この時はまだ思ってもいませんでした。
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