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「江口さん、分かりますかー?」
重たい瞼をゆっくりと開く。
見知らぬ天井、消毒の匂い、スルッと滑りの良い清潔な木綿の肌触り。
布団の温もりが心地よい。
「ん…お、俺…」
目覚めると、俺は病院のベッドの上にいた。
にゅっと、急に白衣の巨乳が目の前に飛び込んできて、おばちゃん看護師が俺の顔を覗き込んだ。
「ああ、お目覚めね…」
そう言って、目尻のシワを深くしてニッコリと笑う。
何で俺、病院にいるんだっけ?
そんな風に思ったのも一瞬のことで、おばちゃん看護師の言葉に、雪の中での恐怖体験が思い起こされ、悪寒が走った。
「それにしてもあなた、長いこと雪山にいたみたいだけど、軽い凍傷で済んで良かったわねぇ〜」
手も足も、指先にビリビリと痛みを伴って痺れていた。自分の手を見ると、指先を中心にところどころが赤みを帯びている。
ぼんやりと救急隊員に運ばれた記憶が蘇る。
「あのっ、赤い車に…女が…」
俺が言葉に詰まりながらも訴えかけると、おばちゃん看護師はテレビをつけてくれた。
「丁度ね、刑事さんもあなたから話が聞きたいって来てるのよ…」
テレビ画面には、見覚えのある赤い車をブルーシートで覆うようにして立つ捜査員と、その隙間から人であろうものが乗った担架が映し出されていた。あんなに強く降り続けていた雪は、嘘のようにすっかり止んでいた。
「…──運転席からは女性の死体が…車の荷台からは男性の死体が見つかりました。どちらも死後数日が経過しており、身元の特定を急いでいます。また現場近くからは、意識不明の男性が救助されました。男性は、この車の発炎筒と思わしきものを持っていたことから、この男性の回復を待ち、事件との関連を─…」
鼻と頬を真っ赤にしたリポーターが、白い息を吐きながら、上ずった声で状況を説明している。
「これ…俺…」
言葉に詰まり、俺はそれ以上何も言えなかった。
「目覚めたばかりだけど、刑事さんと話せる?」
眉を下げて憐れむような表情で、おばちゃん看護師は俺に尋ねた。
俺は「はい」と小さく頷いた。
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