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「よぉ、生きてるか?」
翌日、薄ら笑いを浮かべた加藤部長が、缶コーヒーを数本持って見舞いに来た。
俺は「はぁ、なんとか…」と愛想笑いで返した。
見たい顔ではなかったが、久々に見る知った顔に少しだけ安堵する自分がいた。
「しっかし、災難だったな!単独で事故って遭難しかけて、まさか死体見つけちゃうんだもんな~…」
ベッドに座る俺を少しだけ見下ろす形で、加藤部長が俺の肩をポンポンと叩いた。
あれから刑事に事情聴取されて、俺は正直に事のあらましを話した。
ありのままに、女に襲われた話もした。だがそれは、寒さ厳しい中で遭難しかけたことと、死体を見た恐怖のせいだと笑い飛ばされてしまった。悪夢でも見たのだろうと。
それならそれでいい。あんな恐怖体験は一刻も早く忘れ去りたいのだから…
そうだ、あれは夢だったんだ!そう、夢だ夢であってくれ!
何度もそう思うのだが、太ももに残る女の爪痕が、あの出来事が夢ではなかったことを物語っていた。
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