ホワイトアウト

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 「ング……苦し…」  激しい衝撃のために強く瞑った目を開くと、天地がひっくり返った車に、シートベルトで宙づり状態だった。  ドリンクホルダーから落ちた缶コーヒーは、辺り一面にぶちまけられて、車内は香ばしいキリマンジャロの匂いがした。    あれ、俺、どこも痛くない…?死んだ?  そう思ったのもほんの一瞬で、次第に頭に血が上って苦しくなった。  シートベルトの留め具を外すと、シートから頭の方へ体が滑り落ちて、今度は首に体重がかかって苦しい。逆さまの狭い車内で、どうにか体勢を整えて、四つん這いになってフゥとため息を着く。  そうしているうちに、車のエンジンがシュルルルン…と勝手に切れてしまった。そして、プシューーーと、どこからともなく不穏な音が聞こえてきた。  まさか、炎上したり、爆発したりしないよな?  アクション映画やなんかのワンシーンが脳裏に浮かんだ。事故で横転した車が燃え上がり、漏れ出たオイルに引火して爆発するシーンだ。  俺は焦燥感に襲われて、運転席のドアをこじ開けて外へと這いずり出た。  ビューー…  一気に冷たい雪と風にさらされる。  暖房の効いた車内から、急に氷点下の世界。足先からつま先までの毛穴という毛穴が、一瞬でキュッと引き締まったのを感じた。そして、ぶるっと身震いする。    ひぃ…寒いっ!凍え死ぬっ!  長距離運転のために上着は脱いでいた。  俺は素早く助手席側の天井に落ちているダウンジャケットを引っ張り出して羽織った。そしてフードをかぶる。撥水効果で弾いたコーヒーの滴など気にしている余裕はなかった。  それからスマホを探すと、それは思いがけずすぐに見つかった。俺はそれを手に取ると、そそくさと車から離れた。  早く救助要請…    真っ白い世界にポツンと独りという状況に、俺はパニック状態になった。  今まで乗っていた車が、ひっくり返っているという悲惨な状況を視認したせいもある。  呼吸が荒くなり、心臓がバクバクと動悸し始めた。吸い込む空気は冷えすぎていて肺に突き刺さるようだ。  落ち着け、落ち着け…  震える手に握られたスマホに視線をやると、無残にも画面がバキバキに割れていた。  電源はついているようだが、緊急電話の表示もわからない。  操作しようにも、雪と風と寒さに阻まれる。横殴りの雪が、スマホと俺の手に積もっていく。
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