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俺はつい五日前、三十歳の誕生日を迎えたばかりだった。
高校生くらいまでは漠然と"自分は三十歳になる頃には、当たり前に結婚しているものだ"と思っていた。そして、なんだかんだ不満なんかを言いながらも、そこそこ幸せに平凡な生活をしているものだと思っていた。
だが現実はどうだ?
営業成績はちっとも伸びないし、二年付き合った彼女の椿とも別れた。両親は去年たて続けに事故と病気で亡くなった。
椿に関しては、仕事が忙しくてなかなか時間が取れない時期に、あらぬ疑いをかけられて一方的に振られたのだった。もちろんそれは事実無根で、強く反論したのだが取り合ってもらえなかった。
どうせこんな俺なんかが死んだって、悲しんでくれる奴なんていないだろう。世の中だって、何も変わらずに回っていくんだ…
椿と別れてからは、独りになる時間にふとそんなことを思っては、活気のない日々を過ごしていた。
だが、いざ目の前に死が迫ると、急に怖気付く。
死にたくない、死にたくない、死にたくない…
読みかけのお気に入りの漫画はまだ未完結だし、楽しみにしていた来週公開の映画は児玉と行くことになっている。
そうやって、死にたくない理由を考えてみるが、大したことが無さ過ぎて失笑する。
"死にたくない"に理由なんていらないんだな…
あぁ、でも、児玉は悲しんでくれるかな。
あいつ泣き虫だからな…
あいつ、今頃、外勤サボってどっかの駐車場で肉まんでも食ってんだろうな…
いいなぁ…
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