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ずっと凍てつく寒さにさらされて、きっと感覚が麻痺しているのだ。ひとまず雪と風がしのげて良かった…と、俺は冷えた指先を口元に当ててハァーっと、吐息で温めた。
そして「すみません、本当、助かりました…」と、手を擦り合わせながら、女の方へ視線をやる。女は無言のままだ。
「いやぁ〜本当、あのままだと凍死してました…あ、俺、江口といいます…」
俺は女の方へ体を向けて頭を下げる。
「……じゃないのに」
女は消え入りそうな声で言った。
「…え?」と、俺が聞き返す。
「……いえ」と、女は顔を背けた。
よく聞こえなかったが、女は確かに「まだ、助かったわけじゃないのに」と言った。そして気のせいか、ほんの一瞬、女が薄笑いしたように見えた。
背筋がゾクッとした。
寒さがしのげると思って咄嗟に乗せてもらったが、この女…まさか、サイコパスってことある?
急に不安になった。
そんなわけないよな?と、その不安を払拭すべく、俺は女に話しかけ続けた。
「救助の要請はしたんですか?」
「ええ」
「どのくらい前に?」
「十五分ほど前…」
「公道からスリップしてこの状態に?」
「ええ」
女は、何を聞いても「ええ」か「いいえ」か、必要最低限の事しか答えない。
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