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ブブブブ…ブブブブ…
ズボンのポケットに入れていたスマホが震えだし、その振動が肌を伝って俺の意識を引き留める。すると遠くから消防車なのか、救急車なのか…サイレンの音が聞こえだした。
それと同時に、どういうわけか急に女の力が弱まった。
俺はその隙を逃さなかった。一か八か、俺は再度ドアハンドルに手を伸ばし、ドアを蹴った。
ガコン…
今度はいとも簡単にドアが開く。
俺は咄嗟に女の腕を振り払い、むせ返りながらも、慌てて外へと飛び出した。
その途中、足元に転がっていた薄汚れた赤い筒状の物が目に入った。
俺は素早くそれを手に取り、よろけながらサイレンの聞こえる方へと向かって走った。そうは言っても、雪に沈む足は鉛のように重たくて、思うように動いてはくれない。それでも必死に足を運んだ。
相変わらずホワイトアウトの世界。だが、不思議と寒さは感じなかった。
女が追いかけてくる気配はなく、安堵したのも束の間。数メートル程、よろよろと進んだところで俺は力尽きた。
つめたい雪に倒れ込む。気力も体力も、限界だったのだ。
みるみる体温が奪われていき、睡魔が襲う。
俺は残された力をふり絞って、最後の砦である赤い筒のキャップを外し、点火させた。
シュボボボボ…
風にも負けない頼もしい炎が、激しく立ち上っている。
え…
色つきの煙が出るものと思っていたのだが、肩透かしを食った。
俺が手にしているコレは発煙筒ではなく、発炎筒だったのだ。
この吹雪の中、こんな炎など見つけて貰えるわけがない…
あの化け物から逃げられたのに…
詰みだ。
椿の誤解、やっぱりちゃんと解くべきだったよな……
薄れゆく意識の中、椿の顔が浮かんだ。
椿に、会いたい…
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