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王都聖教会の騎士ウイリアムは、茂みのなかで倒れ込んで夜空をみあげていた。分厚い雨雲から容赦なく雨粒が落ちてくる。 「ねぇ、ウイリアム。生きてる? 死んでる? どちらにしても返事して」 少し離れたところで、少女が身体を起こした。聖教会の紋章が刺繍(ししゅう)されたローブも、金色の髪も白い肌も泥だらけだった。 「死んでたら返事出来ないだろ、リリー」 「してよ。教会を代表する騎士なんだから、してちょうだい」 「シスターってそんな無茶苦茶なこと言う? そういう教義だった?」 ウイリアムはため息をつきながら起き上がった。(とび)色の髪についた草を払い落す。身体のあちこちが痛み、泥に汚れて濡れてはいるが怪我はない。 背後の斜面をみあげる。高いところから転がり落ちてきたわりには幸運だった。 「確かにこっちに反応があったのよ」 ぬかるみに膝をついたまま、リリーは両手を胸の高さに持ち上げた。汚れた手のひらにはコンパスが乗っている。彼女もまた怪我はないようだ。 「こっち……いえ、あっち。ううん、針が振れちゃう。なんなのこれ」 「どうなっている?」 「わかんない。もしかして壊れちゃったとか?」 雨で濡れた金髪が額に貼りついていた。彼女の横顔から血色が消えて、疲労が隠せなくなっていた。コンパスを乗せた手が震えている。 「聖教会所有の聖遺物(せいいぶつ)だろ。そんなことがあるのか」 白い吐息が、冷たい森ににじんでいく。
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