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あたりを見回して雨をしのげそうな場所を探した。真っ暗で、鬱蒼(うっそう)とした森に雨音が響いている。雨足はあきらかに強まっていく。 濡れた身体からみるみる体温が奪われていく。 「しゃ、しゃむしゅぎ……」 リリーが背中を丸めた。コンパスを胸に抱きしめるようにしてガタガタ震えている。 「しっかりしろ!」 自分のローブを脱いで少女にかける。不意に指先が触れた彼女の肌は氷のように冷たかった。 ただでさえ野宿続きで休めていない。蓄積された疲れと雨で、体力はあっという間に限界まで削られていく。凍えるリリーの身体をローブでぐるぐる巻きにする。 焦るウイリアムの視界の端で、なにかが光った。 遠くに橙色の明かりが見えた。それはしだいに近づいて来る。 雨に煙る闇から浮かび上がるように現れたのは、ひとりの青年だった。 「大丈夫そう?」 ウイリアムと同じく二十代前半あたりの年頃に見えた。黒髪で、前髪が目元にかかっている。 大きな植物の葉を傘にして、手に持つランタンでウイリアムたちを照らし出す。 「ダメそう。わりとまずい」 身体は芯から冷え切っていた。地面から冷気が上がってくる。全身が震えて、歯がカチカチと鳴っている。 「助けて欲しい」 青年は静かにうなずいた。 「助けてと言えるのはとても大事なことだ。わたしの秘密の部屋へ招待してあげよう」 そう言って、青年は着ているコートの右のポケットをぽんっと叩いた。
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