砂糖とミルク

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砂糖とミルク

「赤川さん。気分でも優れないんですか?」 「すみません。大丈夫です」 真奈美は大人しく晃と一緒に生徒会室に来たが、頭の中は陽向でいっぱいだった。 図書館には望たちもいるから、そこまで心配はしていない。 ただ自分が側にいられないことがもどかしいのだ。 それに、真奈美が生徒会に入ったのは、陽向と一緒にいたいからだ。 離れ離れなんて本末転倒である。 こうなった原因は、蓮が嫌ってると思われる百合と香里のせいに違いない。 腹立たしくなってきた真奈美は、百合を睨むように視線を向けた。 視線で殺す勢いだった真奈美だが、いつもは拓真に適当に教えているのに、今日は周りに花を飛ばして優しく教えている百合を見て顔を引き攣らせた。 気持ち悪くて吐きそうになる。 最後のネジがとうとう外れたのかと、百合への嫌悪感に拍車がかかった。 見ていたら目が腐ると悟った真奈美は、次に香里に視線を移した。 香里を見たはずなのに平太と目が合い、すぐに逸らされた。 先に逸らそうとしていた真奈美は負けたような気がして、苛立ちが募っていく。 小声で悪態を吐きそうになった時、晃に再度声をかけられた。 「赤川さん。何回大丈夫って聞いたらいいんでしょうか?」 晃を見て心の中で悲鳴を上げた真奈美は、頑張って笑顔を取り繕った。 晃の表の顔は、瞳の奥が笑っていなくて怖いのだ。 その上、今はこめかみがピクついている。 みんなが帰ったら殺されるんじゃないかと思うほどに、背中を恐怖が駆け上がったのだ。 真奈美と晃のやり取りが聞こえたのか、百合が足取り軽く近付いてきた。 「西山くん。ちょっと根を詰めすぎたんだよ。今日で4日目だし疲れているよね。コーヒー淹れてあげる。みんなで休憩しましょ」 真奈美は、百合の淹れたコーヒーなんて飲みたくない。 飲めるなら陽向のコーヒーが飲みたいと肩を落としている間に、百合は6人分のコーヒーを淹れてきた。 会議用の机に並べられ、みんなが座るので真奈美も仕方なく腰を下ろした。 なぜか平太が、砂糖とミルクを配っている。 「……砂糖1のミルク2」 耳元で囁くように言い当てられて、肝をつぶして平太と見ると目が合った。 いやらしく笑っている顔に、真奈美の背中に冷たい汗が流れて、無意識に隣に座っている晃のジャケットの裾を握ってしまった。 「東野先輩、何かいいことあったんですか?」 拓真の質問に、百合は腰をくねらせながら蕩けるように微笑んだ。 「分かる? もしかしたら、元カレとやり直せるかもしれないの」 「そうなんすか? 俺、東野先輩は、てっきり梨本先輩のことが好きなんだと思ってました」 「バレてたの? 恥ずかしー!」 「ん? どういうことですか?」 「だからね、元カレが蓮なの」 聞き間違いかと思う言葉に、真奈美は百合を2度見した。 毎日キャラが変わって、どれが本当の性格か分からない百合と付き合えるなんて、見境がない変態の蓮だから成せる技なのかと考えてしまう。 「……ごちそうさま。続きするわよ」 早々にコーヒーを飲んだ香里が、平太を連れてソファに戻っていった。 百合は、拓真に惚気話をはじめている。 「赤川さん、飲まないんですか? もう飲まないのなら、僕のコップと一緒に片付けてもらえますか?」 「はい」 両手を使おうとする今になって、晃のジャケットを握っていることに気づいた。 静電気が起きた時みたいに素早く手を離したが、晃のジャケットには少し皺が付いてしまっている。 「ごめんなさい」 「これくらいいいですよ。気にしないでください」 表の顔で微笑んでいる時はいつも怖いはずなのに、真奈美を気遣うように微笑んだ瞳の奥が本当に優しくて、さっき感じた不安は姿を隠したのだった。
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