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生徒会終了の時間になり、片付けを終えた人たちから順番に帰っていく。
余程のことがない限り、晃が鍵を閉めるので、真奈美も最後まで残っている。
「やっとみんな帰った。あの人たちといると息が詰まるのよ」
「同感だな。お前、コーヒー淹れられるか?」
「バカにしているんですか。コーヒーぐらい淹れられますよ」
「飲んで帰ろうぜ。さっきのコーヒーが不味すぎて口直しがほしいんだ」
真奈美は「どうして私が」とブツブツ言いながら、コーヒーの用意をはじめた。
晃は、そんな真奈美を横目にドアを意識している。
正確には、ご丁寧にドア向こうから殺気を飛ばしている奴に対してだ。
わざわざ分かりやすく存在をアピールしてくれているのだ。
開けてみるかと、晃はゆっくりとドアに近づいて一気に開けた。
ドア前には誰もいなく、廊下の角を誰かが慌てて曲がって行った。
開けようとしていたことがバレたことも不愉快だが、殺気は1つだったのに2人の影が見えたことが厭わしい。
手紙を含めて、何もかもしっくりこなくて忌まわしいのだ。
「ドアの向こうにいたのが、誰か分かったんですか?」
「お前、気づいてたのか?」
「一応、空手と合気道してましたから。それに、あの殺気は誰でも気づきますよ」
至極当然のように話す真奈美が、大した女に見える。
きっとスラッとして背筋がいいという見た目も相まっているんだろう。
でも、晃は知っている。
靴箱を見た後や手紙の話をする時、真奈美の瞳が怯えるように揺れていることを。
気が強いだけの弱い女の子という印象は、晃の中にもう定着している。
「コーヒー、ここに置きますね」
真奈美は淹れたばかりのコーヒーを、ソファがある机に置いている。
ソファに座った真奈美を見て、晃はドアを閉めて向かいに腰かけた。
特に話すことはないので何となく真奈美を観察していると、真奈美は震えている手を必死に押さえていた。
「どうした?」
「会長は手紙のこと、どこまで掴んでいるんですか?」
「気になることでもあるのか?」
「……砂糖とミルク」
真奈美の絞り出すような声が晃には届かなくて、耳を傾けるように晃は真奈美の隣に移動した。
「悪い。もう1回言ってくれ」
「いえ、何でもありません。さっきの殺気に気が動転したみたいです。すみません」
真奈美は、心の中で頭を振りながら、無理やり笑顔を作ってコーヒーを飲んだ。
晃相手に弱音を吐きそうになるなんて、どうかしている。
平太が砂糖とミルクを言い当てたからといって、手紙と繋がりがあるなんて思うのは早合点だ。
それに、英語の教科書に挟まっていた写真のこともある。
陽向たちには隠した写真のことを思い出し、真奈美は船酔いをしているような感覚に陥った。
気持ち悪さを流し込みたくて、コーヒーを口に含む。
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