砂糖とミルク

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「今日は何かあったのか?」 突然、晃に優しく話しかけられて、真奈美はコーヒーに咽せてしまった。 前屈みになる真奈美の背中を、晃がさすってくれる。 「汚いな」 「急に話しかけるからですよ」 「お前が考え事してるからだろ。人のせいにするな。で、何かあったのか?」 「別にないですよ。強いて言うなら、今日あの女機嫌よかったなぁって思ったぐらいです」 「どうせ蓮が何かやったんだろうよ」 着信音が聞こえてきて、晃はポケットから取り出した携帯を見てほくそ笑んでいる。 「グッドタイミングだな」 相手が誰か教えてもらわなくても蓮だと分かった。 「今日はもう帰ったのか? --- あの女、気持ち悪かったぞ。 --- 信じらんねぇ。感想は? --- 最低だな。 --- なんだ? --- 取れるもんなら取ってみろよ。 --- またな」 楽しそうに話す様子に、晃と蓮の仲の良さが窺える。 真奈美は、帰ったら陽向に電話しようと思いながらコーヒーを飲んでいた。 「蓮と寝たから機嫌がいいそうだ」 真奈美は、咽せるだけではなく噴き出してしまった。 真奈美にとっては、隕石が落ちてくる並みに衝撃な言葉だったのだ。仕方ない。 晃は、また背中をさすってくれている。 「どこまで汚いんだよ。ちゃんと掃除して帰れよ」 「鼻痛い……って、寝たって、あの寝たですか?」 「鼻痛いって!」 晃が、声を出してお腹を抱えて笑いだした。 大笑いする晃は、少年のように無邪気に見える。 真奈美の心を元気にする源のような温かい笑顔のように感じる。 そんな笑顔ができる晃が卑怯だと思うのに、陽向を取った晃が憎らしくあるべきなのに、一瞬にして心が奪われてしまった。 「お前はクールに見せかけて、実は陽向以上に正直者だよな」 「褒められている気がしないのは何ででしょう……」 「蓮があの女とやったこと、やってみるか?」 妖しく微笑む晃に、真奈美は髪を耳にかけられ、その手で輪郭に沿うように顔を触られた。 「悪い冗談ですね。やめないと殴りますよ」 「真っ赤な顔して震えてるのに怖くねぇよ」 激しく音を立てている心臓に圧倒されて、冷静に物事を考えられない。 動いて、目の前の男を殴れ! と思っているはずなのに、指1本動かせないでいる。 顔に触れていた手で顎を持たれて、晃の顔が近付いてきた。 ダメだ! ダメだ! ダメだ! と心臓のリズムに乗るように繰り返し唱えることしかできず、真奈美は目をきつく閉じた。
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