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保健室
陽向は、蓮に担がれたまま保健室に到着した。
蓮が保健室の鍵を持っていることも、修一が中にいないことにも憤りを感じてしまう。
蓮から離れたい。会話をして傷つきたくない。
どうしてか分からないが、蓮の言葉や態度に異常なまでに心が血を吐くのだ。
2人っきりなんて逃げ場がなさすぎる。
保健室に入ると蓮は鍵を閉め、ベッドに腰かけるように陽向を降ろした。
湿布と包帯を持って戻ってくると、ベッドを囲うカーテンを閉めている。
「陽向ちゃん、右手出して」
ずっと聞きたいと思っていた優しい甘い声に顔を上げると、綿菓子のようなふわふわした笑顔がある。
たったそれだけなのに、陽向の意思に関係なく涙が溢れてきた。
「え? ちょっ、泣かないで」
手で涙を拭ってくれる蓮が柔らかく微笑んでいて、視線を逸らせずにいる。
「手首痛いでしょ。ちゃんと話すから、先に手当てしようね」
パイプ椅子に座った蓮は、壊れ物に触るかの如く優しい手つきで手当てはじめた。
触られた部分から甘い温かさが流れ込んできて、次から次へと涙が頬を伝う。
ずっとあんなに泣きたかったのに、今は涙を止めたくて仕方がない。
「はい、お終い。軽い捻挫だから大丈夫だと思うけど、あまり動かしたらダメだからね」
返事ができずにいると、悩んだような顔をした蓮は陽向の真横に座ってきた。
陽向が蓮と距離を空けるように横にずれると、蓮は陽向と肩が触れ合うほどの距離まで詰めてくる。
「もう壁だから、これ以上動けないよ」
蓮に言われた通り、これ以上横には移動できない。
だが、前の空間は空いている。
だから、立って逃げようとしたのに、最後の逃げ道を塞ぐように壁に手を突かれた。
逃げ道を奪われて、もう本当にどこにも行けない。
「何で逃げようとするの?」
「…………ぃなくせに……」
「え?」
「あたしのこと嫌いなくせに! 嫌いならほっといてよ! 優しくしないで!」
睨むように見たはずなのに、軽く目を見開いた蓮の瞳に映った陽向の顔はひどく辛そうに歪んでいた。
陽向の気持ちが伝染してしまったかのように微笑みを消した蓮がきつく目を閉じて、陽向の肩に頭を乗せてきた。
「ちょ! いや! 退いてください!」
反射的に押し返そうとしたら、急に力強く抱きしめられた。
痛いほど強くとかではなく、抱え込むように腕を回されているだけなのに解けないのだ。
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