蓮の思考

6/10
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
陽向は、蓮が言った通りの展開になっていることに、これからも蓮を尊敬しようと瞳を輝かせている。 晃は晃で、蓮を殴るだけじゃ足りないから後ろから飛び蹴りもしようと、心に決めていた。 蓮が晃に考えたバツは、““我慢””だった。 さぞかし、今、蓮は違う場所でニヤついているだろう。 晃は、陽向に気づかれないようため息を吐いた。 乗り気な陽向に今更ダメとは言えず、晃は心で念仏を唱え始める。 「いきますね。……あの、肩に手を置いてもいいですか?」 「いつでも好きな体勢でいいぞ」 晃は、恥ずかしそうに頬を染めている陽向を見ないように、目を閉じることにした。 肩に置かれた手に、近づいてくる気配に、意識が集中してしまう。 明日蓮を殴ることだけを考えようと、この後の展開の想像を追い払おうとする。 だが、そんな努力は無駄なだけだ。 この展開を考えたのは、晃のことをよく知っている蓮なのだから。 頬に陽向の髪が触れたようで、ふわっとくすぐったい感覚がした。 それだけで、意識は蓮を殴ることよりも、「キスじゃないのか?」と陽向に意識を持っていかれる。 そして、晃は体を動かさないようにと、無意識に顔や手に力を入れていた。 ゆっくりと陽向の震える唇が、晃の耳に触れ、耳を挟むように啄んできた。 繰り返し何度もされて背中はゾクゾクしてくるし、陽向を抱きしめて深く口づけたくなってくる。 でも、発作のことを考えると衝動的な行動はできない。我慢をするしかない。 「どうだ? そろそろ、いいんじゃないか?」 陽向が何回もしてくるのは絶対に蓮の指示だと、蓮を恨めしく思っていると陽向の気配が遠退いた。 晃は、軽く深呼吸をしてから目を開けた。 「緊張したけど、できちゃいました」 少し潤んだ瞳で顔を真っ赤にしてハニカんでいる陽向に、理性が半分崩れる音が晃には聞こえた。 このままの雰囲気で部屋にいては最悪なことになると、早々に帰ろうと陽向から視線を逸らしている。 「できてよかったな。俺も嬉しいよ。今日はもう帰ろう。な!」 「棒読みで何か変ですよ? でも、第1段階突破できたんで、今日は帰りましょう」 「第1段階て、何だ?」 「あっ! 言うなって言われたんでした……聞かなかったことにしてください」 陽向は、晃に突っ込んで聞かれないように慌てて立ち上がり、会議机の上に置いている鞄を取りに行く。 晃は、蓮の嫌がらせの度が過ぎていることに、「明日絶対に殴って蹴ってから、第2・第3を問い詰めてやる」と、何度目が分からない深い息を吐き出したのだった。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!