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「どっか寄って帰る? コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
先ほどから蓮が何を話しても、真奈美からは返事が返ってこない。
蓮は、小さく息を吐いて切り出した。
「俺に何か聞きたいんじゃないの?」
もうすぐ昇降口というところで、蓮がおもむろに立ち止まった。
足元を見ていた真奈美は、つられたように歩みを止め、蓮を見上げている。
「お前らも、そんな所に隠れてないで出てきたら?」
誰に言ってるのか分からなくて、真奈美は蓮が言った方向を見やった。
すると、昇降口の陰から、大輔・広志・望・美樹が出てきた。
重たい雰囲気を纏っている4人に、蓮が明るく茶化しながら声をかける。
「女の子に待たれるのは嬉しいけど、男は勘弁だぞ」
誰も答えない。
「どうして分かったの? どうして笑っていられるのよ!?」
真奈美の思い詰めている声にも、蓮はいつもの優しい笑顔を決して崩さないでいる。
「んー、何となくかな。みんな、気持ちの切り替えができないんだろうなって。笑ってるのは、別に嫌なことも悲しいこともないから。それに今、晃のバツ中だからね。想像しただけで面白い」
笑顔を通り越してニタッとほくそ笑む蓮の顔に、通常の精神状態なら誰もがツッコんだだろう。
雰囲気も賑やかなものに変わっただろう。
だけど、お葬式みたいな空気は纏わりついたままだ。
「蓮……お前のことだから、俺たちに手を差し伸べることはしないだろうけど……」
「分かってんじゃん。今回は、お前らが後先考えなさすぎだからな」
「だけど、誰かに聞いて欲しいんだ。それで、お前が普通でいられる理由も知りたい」
痛々しげな顔をしている広志の訴えに、蓮は大きな息を吐き出した。
笑顔は消え去り、真剣な表情に変わっている。
「頼むよ、蓮。お前に甘えすぎだって分かってる。けど……どうしようもないんだ」
「もう少し自分たちで、何とかしようと思えよ。お前ら見てると、晃が立派に見えるよ。お前らが苦しいのも分かるよ。けど、晃は苦しいどころじゃないと思うぞ。それでも、あいつは笑えてた」
全員俯いて、苦い顔をしている。
もう広志でさえも、何も言ってこない。
「ったく。今回は特別だからな。真奈美ちゃんと話そうと思ってたから、ついで。有り難く思えよ」
蓮は再びふわっと笑い、大輔と広志の頭を軽く叩いた。
「望ちゃんも美樹ちゃんも、思ってること言ってくれていいからね。可愛い子には大サービスするよ」
ウインクしながら望と美樹の頭を軽く撫でた後、真奈美の手を握った。
「ちょっと!」
「今日は女キャンセルしたんだから、これくらい許してよ。立ち話もあれだし、移動しよっか」
真奈美の手を引き、歩き出した蓮の後ろを、大輔たちは何も言わずについていった。
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