全校集会

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時間になり始まった全校集会は、晃が進行をする。 淡々とそつなくこなす晃に、陽向は羨望の眼差しを向けている。 何でもできるし優しいしで、非の打ち所がない。 それは、隣になっている蓮も同じだ。 だからこそ、どうして真奈美がよく言い合いをするのか謎だった。 真奈美を揶揄うばかりの蓮は、確かに最低だ。 陽向も蓮に「そういう風に聞くと最低です」と伝えたことがある。 『じゃ、陽向は、あいつに抱きしめられたり、キスされたりしたら嬉しいの?』 そんなことを想像したことなんてない。 けど、真奈美のように蓮に抱きしめられたりしたら、どう思うだろうか? 屋上では、抱きついただけで抱きしめられていない。 あの時、もし抱きしめられていたら? 「陽向ちゃん?」 「は、はい」 「ボーっとして大丈夫? もうすぐ出番だよ。楽しもうね」 蓮は、柔らかく微笑んでいる。 前を見ると、真奈美が挨拶をしていた。 真奈美の落ち着いた話し方や完璧すぎる文章に、否応にも緊張が高まっていく。 噛んでしまったらとか、ネタにしてもらおうとか、そんなことを楽しむ余裕は消え失せた。 できることなら、迫り上がってくる心臓を無視できるほどの奇声を上げたい。 叫べば落ち着けそうじゃないか。 でも、してはいけないと分かっている。 真奈美の挨拶が終わり、拍手と晃ファンからのヤジが起きている。 真奈美は、全てを華麗に聞き流していた。 「さ! 行こ」 蓮に続いて、陽向もマイクの前に移動した。 蓮と揃えてお辞儀をし、しどろもどろの挨拶が終わろうとした時、ヤジが飛んできた。 「あんたなんか認めない!」 「蓮様の横に立たないで!」 他にも「やりマン」「クズ」などの言葉が飛び交っているが、陽向も知らん顔をして挨拶を終わらせた。 マイクを置こうとした時、横から笑顔の蓮にマイクを取られた。 大きく息を吸い込む蓮に、陽向はもちろん、晃たちも首を傾げている。 「うっせー! バカブスたちが僻んでんじゃねぇ! 俺の横に並ぶのは青木陽向だけだ。文句があるなら、直接俺に言いに来い。もし、青木陽向に何かしてみろ。容赦しないからな。それと、これからは見かけても叫ぶな。鬱陶しい」 最後は吐き捨てるように言い終わると、陽向の手を取って、元の位置に戻っていった。 周りが唖然としている中、百合だけが拳を震わせていた。
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