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バイト
陽向は、朝早くから蓮の家の前にいた。
昨日のお昼休みの時間に、蓮から「明日のバイトは朝の9時からね」と言われたからだ。
本当に行っていいのかなと悩んだが、来ると思われていて行かない方が失礼にあたると思い、緊張しながらやって来たのだ。
それでも、門の前でまた悩んでいたら、昌也が自転車を押して出てきた。
「おはよう。今日から宜しくね」
「おはようございます。あの、本当にお言葉に甘えてもいいんでしょうか?」
「全然構わないよ。中で祥子さんが待っているから。頑張ってね」
陽向の肩を叩き、まるで乗馬のように自転車で優雅に出かけて行った。
陽向は気合いを入れるため、大きく深呼吸してから門の中に入っていった。
「ごめんください」
玄関でチャイムを鳴らすと、すぐに祥子が顔を出してくれた。
「おはよう。早速だけど、着替えてから蓮を起こしてきてもらってもいい」
「はい、分かりました」
前回来た時に案内された衣装部屋で可愛いメイド服に着替えてから、祥子に教えてもらった蓮の部屋に向かった。
角部屋に到着し、軽くノックするが返事がない……を、何回か繰り返した。
声もかけてみたが、部屋の中から音は聞こえない。
起きない人だと悟り、挙動不審になりながらドアを開けた。
家族じゃない男の子の部屋は、初めてで緊張する。
「失礼します……」
身を縮めながら入った蓮の部屋はシンプルで、勉強机とベッドしか見当たらない。
広い部屋なのに、本当にそれ以外何もなくて侘しくなってくる。
陽向は、バイトに集中しようと頭を左右に小さく振り、気合いを入れ直した。
「起きてくださーい」
ドア前から声をかけても、ベッドの上の塊は動かない。
仕方がないとベッドに近付づくと、蓮は布団にくるまり気持ちよさそうに眠っている。
普段の蓮では感じることのできない大人っぽい寝顔に、陽向は「ほへー」と声とも息とも言えない音を出した。
このまま見続けられるほど飽きない顔だが、陽向の仕事は蓮を起こすこと。
「梨本先輩、おはようございます。起きてください」
はじめは、普通に声をかけた。
2回目は少し大きな声、3回目は大きな声。
次に耳元で叫んでも……起きない。
最終手段と思い、体を揺すろうと触ったら、陽向の景色が変わった。
両手は頭の上で拘束され、口は蓮の手で塞がれている。
「…………陽向ちゃん?」
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