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「ありがとう、陽向ちゃん。あら? 顔真っ赤よ。大丈夫?」
これからの仕事を聞くためにリビングに行くと、祥子がソファでお茶を飲んでいた。
「だ、大丈夫です。あの、梨本先輩って寝起き悪いんですか?」
「そうねぇ。あの子、朝5時から稽古で、平日はそのまま学校なんだけど、休みの日は終わったら寝るのよ。その時だけ起きないから、昌也さんが跳び蹴りで起こすんだけど、今日は起こさず出て行っちゃったのよね」
「跳び蹴り!? スゴいですね……」
大きな足音が聞こえて、ドアが乱暴に開けられた。
顔が釣り上がっている蓮が、リビングを見渡している。
「クソ親父! どこ行きやがった」
「朝からどうしたの? 昌也さんなら出かけていないわよ」
「んな訳ねぇだろ。今日の蹴りは、本気で痛かったんだからな」
祥子が、驚愕した面持ちで陽向を見ている。
陽向は、苦笑いするしかなかった。
「梨本先輩、おはようございます。その、蹴ったのは、あたしなんです。ごめんなさい!」
「あれ? おはよう。そっか、今日からバイトだったよね。って、陽向ちゃんが蹴ったの!?」
素っ頓狂な声を出す蓮に、陽向は力なく頷くしかない。
「蹴られるなんて、蓮が何かしたんじゃないの?」
「何って……え? もしかして、夢じゃなかった?? やけにリアルと思ってたけど……」
「あ、あの! 祥子さん! 今日は、何をすればいいですか?」
蓮が考えはじめたことが恥ずかしいし、思い出されると気まずくなるので、話題を変えようと急いで放った言葉は少し裏返ってしまった。
シドロモドロの陽向に気付いた祥子は、嬉しそうに表情が緩みきっている。
「いつでも蓮と結婚してくれていいわよ。それと、今日して欲しいことを纏めておいたわ」
祥子から渡された紙を見ると、主に庭の掃除と手入れだった。
掃除道具がどこにあるかも書かれている。
「分かりました。頑張ります」
「あ! 陽向ちゃ――
蓮を無視して、陽向は駆け足でリビングを出て行った。
「お袋。陽向ちゃん戻ってきた時、普通だった? 震えてなかった?」
「顔が赤いくらいだったわよ。どうかしたの?」
「いや……別に……」
「そう。私ももうすぐ出かけるわ。夕方くらいには帰れると思うけど。蓮は、今日出かけるの?」
「稽古のやり直しが出たから、昼に少しだけ。それくらいかな」
「珍しいわね。夜は?」
「陽向ちゃんがバイトの日は出かけないよ。夜帰るの危ないから」
柔らかく微笑んだ祥子は、蓮の頭を撫でてリビングから出て行った。
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