17人が本棚に入れています
本棚に追加
陽向は庭掃除をしながら、蓮のニヤニヤ顔が祥子のニヤける顔とそっくりだったことを思い返していた。
そして、昌也と蓮の雰囲気が似ていることや、昌也と祥子の発言が変わらないことに、よく似ている家族を羨ましがると同時にどうしようもない寂しさを感じていた。
「ひーなたちゃん。そろそろ休憩したら? もうすぐお昼だよ」
「も、もう少しで、ここ終わりますので」
肩を揺らした陽向は、早口になり、箒も異常に速くなった。
なにより蓮を見ようとしない。
「そっか。終わったら一緒にお昼食べようね。中で待ってるから」
「バイトですから、お昼は自分で用意します」
言いながら振り返ったのに、蓮の姿はもうどこにもなかった。
早く掃除を終わらせて昼食を断らないと食事を待たせてしまうと、できる限りの早さで終わらせたのに、蓮に言いくるめられ、努力虚しく一緒に食べることになってしまった。
どうしていつも断り切れず、丸め込まれるのか分からない。
気が腐るほどの反省点だ。
だが、そもそも全てが怪奇現象すぎる。
今だって、広いテーブルなのに、どうして隣で食べているのか不可解なのだから。
「美味しくない?」
蓮に覗き込まれて、陽向は仰け反りながら勢いよく立ち上がってしまった。
「いえ、美味しいです」
「美味しいならよかった。座って、ゆっくり食べよう」
機械のようにカクカク動く陽向の様子に、蓮は夢じゃなく現実だったと確信した。
いくつか理由はあるが、蓮は陽向には手を出さないと決めていた。
それなのに、夢だと思って欲望のまま動いてしまった。
受け止めた事実に、蓮は蓮で天を仰ぎたくなる。
座り直した陽向は、大袈裟に反応してしまう自分に嫌気が差していた。
蓮はいつも通りなのに、陽向がしゃちほこ張るせいで気まずい雰囲気になる。
折角の美味しいご飯が不味くなってしまう。
このままではよくないと、きちんと話せるようになろうと勇気を出した。
「「あの……」」
蓮と陽向の声がダブり、蓮はクスッと甘く笑った。
陽向には、なぜかその笑顔が心地良く感じる。
緊張も不安も動揺も、全てが和やかに変わっていく。
「陽向ちゃんからどうぞ」
「はい。ご飯とても美味しいんですけど、明日からは自分で用意します。甘えてばかりで、このままじゃイケないと思うんです」
「うーん、賄いが出るバイトだってあるんだし、気にする必要ないよ。陽向ちゃんが要らないって言っても、親父たちは用意するから余ったら勿体ないし。だから甘えとけばいいよ」
最初のコメントを投稿しよう!