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ゴクリと唾を飲み込む。期待と不安が入り混じった感覚。心臓の音が耳にまで響くなんて初めての経験だった。
「ちゃんとバレンタインをするのって初めてだから、先輩が好きなナッツをたくさん入れたブラウニーを作ってみたんだよ」
「えっ、嬉しすぎる。食べてみてもいい?」
真白ちゃんが頷いたから、箱の中に並んだブラウニーを一切れ取り出して口に入れた。俺が好きなものがたくさん詰め込まれたブラウニー。こんなの食べたら、やっぱり今の関係を壊したくなくなってしまう。
一緒に過ごすようになって一年。真白ちゃんは本当に俺のことをよく知っているからびっくりする。こんな良い子、なかなか出会えないよ……。
やっぱり何も言わないに越したことはないのかな--いやいや、何を怖気付いてるんだ。言うって決めたのは自分じゃないか!
「どうかな?」
不安そうに問いかける真白ちゃんを、俺はドキドキしながら真っ直ぐに見つめた。
「うん、すごく美味しい」
「本当? 良かったぁ」
真白ちゃんは安心したようにベンチに倒れ込む。
「真白ちゃん、俺の好みを熟知しているからすごい。もう真白ちゃんなしじゃ生きていけないかもしれない」
「あはは! 先輩ってば大袈裟だよー」
「大袈裟かもしれないけど、でも本心でもあるよ」
不思議そうに目を瞬く彼女の手をそっと取ると、俺はポケットに入れていたトリュフチョコレートの包みを取り出して、真白ちゃんの手に載せた。
「これって……板チョコ?」
「へっ⁈ 板チョコ⁈」
よく見たら丸々としていたトリュフチョコレートが溶けて、一枚のチョコレートに変化してしまっていた。
「えーっ! トリュフチョコレートだったんだよ⁈ 頑張って作ったんだけど〜!」
「先輩……わざわざ作ってくれたの? どうして?」
「どうしてって……それは……」
「それは?」
何故だろう。真白ちゃんが目を潤ませ、口をキュッと結んだまま俺を見ている。この表情には一体どんな感情が隠れているのかわからなかったが、彼女にこんな顔をさせているのが自分だということはわかった。
その事実が背中を押してくれ、緊張や不安はまだあるものの、きちんと気持ちを伝えようって思えた。
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