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「あぁ!?何見てんだよっ!」
ちらちらと自分達に向けられている冒険者達の視線に苛立ちを募らせていたジャッキスが、我慢の限界だと言うように吠える。
その怒声と共に放たれる殺気に、ギルド内にいる冒険者やギルド職員が震え上がっていると、横からすっと手が伸びてジャッキスの肩に添えられる。
「やめろ、ジャッキス。ここで当たり散らしても意味はない」
「……んなこたぁ、俺だってわかってんだよ」
自分でも八つ当たりなのがわかっていたので、ジャッキスは肩に添えられたユアンの手を振り払うこともなく決まりが悪そうにしている。
「な、なぁ、イリーナを首にしたの…………ひぃっ!?」
ユアンがジャッキスを止めたことで安心したのか。
誰もが聞きたくても聞けないでいたことを口に出した冒険者が、最後まで言い終えることなく悲鳴をあげる。
ジュッと何かが焼け焦げる音が聞こえたかと思うと、その冒険者が顔の横に垂らしていた髪が一房はらりと床に散る。
呆然としている人々の視線の先では、完全に表情を消し去ったエリザが冒険者に向けて手を突き出していた。
「次は当てますよ?」
ユアンとジャッキス以外には一瞬だけ何かが光ったようにしか見えなかったが、エリザが無詠唱で光魔法を放ち、冒険者の髪を焼き切ったのだ。
エリザは治癒魔法使いだが、攻撃手段がないわけではない。
光属性にも攻撃魔法は少ないながらもあって、当然それらは全て使える。
それだけでなく、実は体術だってそれなりに使える。
そうでなければ、一流の冒険者は務まらないのだから当然と言えば当然なことだ。
だが、それを実際に披露することはほとんどなかった。
何故なら、多種多様な攻撃魔法を扱え、いつでもエリザが回復や支援に専念出来るように立ち回ってくれるイリーナがいたから。
「エリザもやめておけ。もう行くぞ」
ユアンが声をかけてギルドから出て行くと、ジャッキスとエリザもまだ呆然としたままの冒険者達に視線すら向けることなくそれに続く。
「なぁ、本当にこれで良いのか?」
冒険者ギルドから離れ、そのまま街からも出たところでジャッキスが口を開く。
「今はこれで良いんだ」
「でもよぉ……。三人じゃ間違いなくキツくなるぞ?
イリーナの援護がなくなるんだし」
「もちろんわかっている」
どんな魔物と戦う時も、イリーナは常に的確なタイミングで援護射撃をしてくれていた。
それで魔物の気を逸らしたり、視線を遮ってくれていたからこそ、前衛であるユアンとジャッキスは安心して戦えていたのだ。
「それでも『暁の風』の魔法使いはイリーナだけだ。
他の奴と組むなんてありえないだろ?」
「まぁ、確かにそりゃそうだな」
「うん、私も異論はないわ」
ユアンの言葉に、ジャッキスとエリザが表情を緩めて頷く。
「あぁ。だから、こんなふざけた依頼はさっさと終わらせよう。
そして、イリーナを迎えに行くんだ」
「おう!」
「ええ!」
もう一度三人で頷き合うと『暁の風』は歩き出した。
かけがえのない仲間ともう一度歩むために。
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