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 わたしには透視能力がある。ものが透けて見えるというだ。  漫画や映画の世界では、透視能力を持つ人物が悪の組織に立ち向かったり、ギャンブルで勝って大金持ちになったりしているが、わたしは彼らのようにはなれないだろう。なぜなら、透けて見えるものがポケットに限られるからだ。  あらゆるものが透けて見えたなら、昨晩だって今日の小テストのために必死に英単語を覚える必要なんてなく、カンニングペーパーを1枚用意するだけで済んだのに。  国道沿いの歩道、あくびで押し出されてくる涙でにじんだ視界には、わたしと同じ高校の制服を着た男子生徒の後ろ姿が、車1台分くらい先に映っている。涙を拭って、焦点を彼のお尻の辺りに合わせる。スラックスの一部がすうっと透けて、携帯が現れる。まるでそこに張り付いているようで面白いけれど、特に珍しいものでもない。もう一度あくびをして、わたしは視線を上げた。
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