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「――……青葉さんの、バカッ!」 「華さんの頑固者!」  お互いににらみ合い、口を閉じる。  週末、あたしの部屋で、おうちデートのはずが――。 「だから、青葉さんのお誕生日なんだから、青葉さんの行きたいトコに行こうって言ってるだけでしょ!」 「だから、華さんが行きたいトコが良いって言ってんの!」  去年、いろいろあったが、どうにか、よりを戻したあたし達に、一つだけ、大きな変化があった。  ――それは、こうやって素でケンカできるようになったコト。  あたしは、膨れっ面のまま、青葉さんを見上げる。  ――もう一度、最初から、やり直してぇ。  そう言って、告白から始めてくれた青葉さんと、また、お付き合いを始めての、初の彼の誕生日。  あたしは、せっかくだから、彼の行きたいところに行き、したいコトをしようと提案したのに。  ――俺は、華さんと一緒なら、どこでも良い。ていうか、華さんが行きたいトコが良い。  そう返され、あたしの機嫌は急降下した。 「……だから、あたしは、青葉さんの行きたいトコが良いって言ってるのに」 「――だから、華さんが行きたいトコが良い」  互いに譲らず、もう、一時間以上無限ループの言い合いが続く。 「……青葉さんの頑固者!」 「それを、華さんが言うか!」  にらみ合いながらも、二人並んでベッドに背を預け座っている。  その距離は――もう、ゼロだ。  あたしは、彼にピッタリと身体を寄せ、ムスリ、と、にらみ上げる。  それを見下ろし、固まる彼は、苦々しく息を吐く。 「――襲うぞ、華」 「……できるの?階下(した)にお父さんもお母さんもいるのに?」  そう返すと、チッ、と、舌打ちされた。  その反応に、クスクスと笑いがこぼれる。 「……ああ、もう、ズルいぞ、華さん!」 「ズルくても良いから、青葉さん、どこ行きたい?」  あたしが譲らないのは理解しているはず。  彼は、はあ、と、大きく息を吐いた。 「――……じゃあ」 「うん」 「ラブホ。華さん不足。土日かけられるし、ずっと可愛がりてぇ」 「――……っ……!!!」  あたしは、真っ赤になって、彼を突き飛ばそうとする。  けれど、それは、予想されていたようで、あっさりと手を取られ、隙を突かれたあたしは、そのまま唇を噛まれ、ビクリと跳ね上がった。 「なっ、なっ……!」  まあ、やり直すと決めた交際は順調で、あたし達は、それから、二か月ほどで、再び身体を繋げる事にはなった。  でも、それは、あたし達なりのスピードで。  青葉さんも、あたしの気持ちを優先してくれて、ちゃんと、同意の上、”高層ホテルの最上階”を叶えてくれた。 「青葉さんっ!」 「――したくねぇ?」 「……う」  既に、青葉さんに作り替えられている身体は、簡単に反応してしまう。  それでも、以前のように、自分の思うようにする事もなく、彼は、からかいながらも、あたしを大事に扱ってくれているから――。 「……じ、じゃあ……良い、よ?」 「え、マジ?」 「冗談だったの⁉」  驚く彼に、あたしは、癇癪を起しそうになる。  ――たびたび、子供のように、あたしをからかう彼は、楽しそうで――怒るに怒れないのだけれど。 「いや、本気だけど」 「え、あ……」  けれど、急に真剣な表情で、その鋭い眼であたしを真っ直ぐに見つめる彼の中の熱を感じ、恥ずかしくなるが、うなづいた。 「……ち、ちゃんと、加減、は、してね……?」  ゴニョゴニョと口ごもりながら言うと、青葉さんは、ニッコリと微笑む。 「俺の加減で良いんだよな?」 「バカッ!立てなくなったら、仕事行けないでしょ!」  そう返せば、彼は、吹き出して顔を背けながら笑い出す。 「な、何よ」 「――いや、華さん、立てなくなるまでされると思ってんだ?」 「――……っ……!!!」  あたしは、半泣きで、立ち上がるとベッドから枕を手に取り、彼を叩く。 「バカッ!何で、そう、揚げ足取るのよ!」 「うわっ!ごめん、って!」  バシバシ、と、しなりながら彼に向かう枕を手で押さえて、青葉さんは、アハハ、と、笑う。 「ちょっと、二人とも。ケンカしてるのか、イチャついてるのか、どっちよ」  すると、母親がノックも無しにドアを開け、あたしは、枕を持ったまま固まる。 「――っ……!」 「すみません、ちょっと、華さんの機嫌を損ねてしまいまして」  ニッコリと、余所行き仕様で返す青葉さんに、母親は眉を下げる。 「あらあら。ホント、面倒な娘でごめんなさいねぇ、青葉くん」 「ちょっと、お母さん!」  面倒とは何よ!  そう返す前に、あっさりとドアは閉められた。
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