ポケットじゃなくて

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 次の日、学校で騒ぎが起きた。僕たちのクラスだった。 「職員室へ来なさい。ご両親にも来ていただくから」  ケンタは一時間目が始まる前に、副担任に連れられて教室を去った。学校に来てからリモート朝礼が終わるまでの間ずっと、ポケットの中にあるビスケットをつぎつぎと口に運んでいたせいだ。 「君たち、仲よかったよね。なにがあったか知らない?」  担任に聞かれたけれど、僕はうつむいたまま首を左右に振った。  だって昨日のことを知ったら、大人たちはケンタを責めるだろう。でも、ほんとうに悪いのは黄色い服の男じゃないのか。しゃべる訳にはいかなかった。  給食時間に母親が来て、彼は早退した。帰り道、通学路のところどころにジンジャーブレッドマンが落ちているのを、僕は見た。  次の日、ケンタは学校に来なかった。  月曜日になった。  今日も机がひとつ空いていた。胸がしだいに鉛のように重くなって、顔を上げることが難しくなってきた。  僕はついに黄色い服の男のことを担任に告白した。 「ビスケットを配ってたんです。見たことのない人でした」 「君も、そのビスケットを食べたの?」 「食べてません」  家に帰ったとたん、高校生の姉に見つかって二枚とも捨てられたからだ。 「そう……それは、お姉さんに感謝しないと」  あとで母にも同じことを言われた。  ケンタは病院に入院することになった。治療を受け、退院したら戻ってくると聞いたが、彼の家はいつの間にか更地になっていた。夜逃げをした、という噂が近所でしきりとささやかれた。
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