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#01
一章 一部『「好き」に気付くまで』
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「マジかよ……なんだこれ……?」
耳に入る高い声。オレの言葉のはずなのに、全く違う人物の声のようだ。目の前の鏡には1人の幼女。小学校中学年くらい?
「オレの名前は内川蒼。大学1年の18歳。サークルはオカルト研究会で……」
鏡に向かって話しかけてみても自分だと言う実感が無い。目の前の少女は困ったような顔をするだけ。夢かと思って頬をツネってみたら、あまりの痛みに涙が出た。
「ひっ!? い、痛いっ!?」
感覚が明らかに過敏になってる。どれだけ止めようとしてポロポロと落ちる涙が止められない。
「うぅぅぅうう……な、なんでぇ……?」
うずくまると、今度は長い髪が首筋に当たってくすぐったい。顔を動かす度サラサラした髪が耳にあたり、シャワシャワと音を鳴らす。思わず声に出して笑いそうになるのを、無理矢理思考を引き戻した。
「な、なんでオレこんなことに……?」
なんだろう? 何かすごく大切なことを忘れている気がする。
確か昨日の夜、何かをした気が……。
「あらあら。良い出来ね〜!」
突然声がして振り返ると、知らない女がベッドに座っていた。
「だ、誰?」
恐る恐る声をかける。女は困ったように首を傾げる。
「貴方が昨日呼び出したんでしょ? 願いの女神、ディーテを呼ぶ儀式で……」
願いの女神?
「ほら、これも持ってるじゃない」
女がベッドにあった本を持ち上げる。皮の表紙に読めない外国語。大学図書館の奥深くに隠されてたオカルト本。
それを見た瞬間、急激に記憶が蘇る。
そうだ。昨日、大学の図書館の奥で見つけたんだ。オカルト研究会の部長が前に言っていた「願いを叶える」と言われている本を……。
それで、オレは本を借りて試したんだ。深夜0時に「願いの神」を呼び出す儀式をして。
女神から本をひったくる。床に置いてページをめくると確かに1ページだけ折り目が付いていた。
「読める……深夜0時に女神を呼ぶ呪文……そうだ。このページだけなぜか読めたんだ」
「その本は願いを持つ者に反応するわ。だから貴方はそれが読めたの」
女神がウットリとオレを眺める。それはどこか芸術品を眺めるように恍惚としていて、人には向けないであろうその視線が少し気持ち悪かった。
「でも貴方も中々な願いを持っていたわね? 『女の子になりたい〜』なんて」
「お、オレはそんなこと言ってない!」
「え〜? 言ってた言ってた。貴方の潜在意識がね。ふふ」
潜在意識? そもそもオレってどんな願いを叶えようとしたんだっけ? すごく大切なことだったはずなのに、頭の中にモヤがかかったみたいに思い出せない……。
覗き込んで来るディーテ。微笑んでいるのに有無を言わせないその圧力に思わず涙がじわりと浮かんだ。
「ホラホラ泣かないで〜? せっかく貴方の為に作り変えてあげた体なんだから。あ、でも幼くしてあげたのは私の趣味ね。その方がカワイイでしょ?」
女神がオレの顔に手を添える。怖くて涙がポロポロ出てしまう。
「カワイイ〜! 我が腕前に改めて感心してしまうわね!」
「も、元に戻る方法を教えて!」
「無いわ」
「……え?」
威圧感に襲われる。オレの言葉なんて一切聞き届けないという意志を感じさせる女神。その姿は、オレとは全く別の存在だということを実感させた。
「無いわよ。だってそれが貴方の「願い」なんだから。願いは一度叶えたらおしまい。諦めなさい」
「そんなの!?」
「あ、これは返して貰うわね〜」
女神はそう言うと開いていた本をヒョイとつまみあげ、窓を開けた。
「それじゃあね〜。楽しんで!」
言うと同時に窓から外へと飛び出すディーテ。慌てて窓を覗き込んだが、そこにもう女神の姿は無かった。
もう一度、鏡を見る。肩まで伸びた髪、前髪は綺麗に切り揃えられていて人形みたいな姿。ダボダボの服とアンバランスというか……。
「どうしたらいいの? これから……」
目の前の少女は、ただただ目をウルウルとさせていた。
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