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それがまるで私みたいで、悲しい。
手軽で便利で、すぐに手に入ってしまう女。
自ら手放した価値を今さら惜しむなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ない。投影された熱に厄介な感情を注いだところで誰も得をしないのだから、目を瞑るべきだ。
嘘をついてばかりの職業でよかった。
白を黒にするのも、黒を白にするのも大得意だ。
「あれ、あんたら随分早いわね」
円卓に判例資料を散々広げていたところに現れたのは、同期の雑賀咲綾と海堂総司だ。艶っぽい唇にピンクブラウンのリップを乗せた咲綾が意味深な笑みを浮かべながら、黒のルブタンを鳴らしてこちらに歩み寄る。
「こんな朝から揃ってご出勤なんて卑猥~」
「今の言葉、あんた達ふたりにそっくりそのままお返しさせていただくわ」
「あら、じゃあ今晩は私が千隼借りていい?」
「どうぞどうぞご勝手に」
咲綾の軽口は通常運転なので相手にしない。
くすくすと艶美に微笑みながらミルクティーブラウンの長い巻き髪を搔き上げる咲綾は薄茶色の大きな瞳と形の良い唇が特徴的で、まるでフランス人形みたいな美女だ。
「あのね、俺にも選択権はあるんですけど?」
「なぁに、千隼は私じゃご不満なの?」
「んなわけあるか喜んで」
朝っぱらから頭と下半身のゆるい会話をするのはやめてほしい。うんざりしながら頬杖を突く私の隣の席に腰掛けた総司が、「おはよ」とこちらも通常通りのぶっきらぼうな調子で呟くので、軽く挨拶を返した。
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