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「今回の件に関して、山陽興業として特に声明などは出さない方向で動いてます。蜷川も形ばかりの謝罪会見をしましたけど、結局肝心なことは記憶にないで押し通して、まともになにか喋ったわけでもないですから」
「なんか役に立ちそうな情報は掘れたか?」
「一点だけ、気になることが」
山陽興業からマザーに対する多額の出資が些か不可解であることを萩原に告げた。医療関連事業に伸之は何故ここまで金を払うのか?あれから調査を重ねれば重ねるほど、俺の中の疑念は深まってゆくばかりだ。
「今は山陽興業側と協力関係にあるラザロフ製薬についても調べていますが、こっちの経営面にはコンサルがガッツリ入り込んでてまともな情報が降りてこない」
「霧生もその辺は苦労してたな」
「アイツも調べてはいたんでしょ、この件も」
ああ、と萩原が咥え煙草のまま頷いた。蜷川と杠葉の失脚を狙っていたのなら、霧生もマザーに関しては当然調べ上げていただろう。しかし今回の告発の中に、マザーについて触れるような記載はどこにもなかった。
「書けなかったんだ、情報が薄すぎて」
「まあ、欲張って信憑性の薄い情報まで混ぜ込んじまうと、告発した内容すべてに対する信用度が下がりますからね」
さすが賢明だな、と胸の内で思う。
最後に見た男の朧げな残像が頭に浮かんだ。
霧生篤人とは、まともに言葉を交わしたことすら数回しかないが、それでもなんのツテも人脈も持たなかった高校生の餓鬼が十年かけて、ここまで大規模な暴露を起こしたのだ。これまでの霧生の苦労が並大抵のものではなかったであろうことは察するに余りある。
それは、どれほどの怒りだろう?
俺にはその憎しみを想像することさえできない。
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