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本気で悪魔みたいな男だな、と俺が内心舌打ちを吐き捨てたことも玉城はお見通しだろう。嬉々として俺を見下している男は、決して主導権を他人には明け渡さない。
「俺はこう見えても気は長いほうなんだよ」
「…嘘つくんじゃねえよ」
「はは、元から長期計画を組んでるもんが時間を食うのは当然の道理だろ?まあお前が現れたおかげで多少計画が狂いはしたが、まあリカバリーが利かねえほどのトラブルじゃねえよ。精々お前が落ちぶれたあとに美味いとこだけ食ってやるから好きなだけ足掻けよ」
発破をかける──意図はねえわな。
玉城政臣に限って、それだけは絶対あり得ない。
この男こそ欲しいもののためなら手段を選ばない人間だと知っている。だからと言って玉城の言い草はあまりに人間的な素養に欠陥があるが、俺が何を言ったところでその穴が塞がるわけもない。
項垂れるように俺も煙を吐いた。不純物まみれの紫煙がゆらゆらと天井付近に滞留してから、換気口へと吸い込まれてゆく。喫煙所に設置されたカウンターに体重を預けながら、玉城は俺のほうに不遜な視線を流す。
「蜷川のこと、まだ掘る気か?」
「…ここで投げ出すわけにはいかないでしょ」
「それを聞いて安心したぜ、なら俺の勝利は固いわけだ。だって優しいお坊ちゃんは自分の正義とやらに惚れた女を巻き込めねえもんなあ?破滅は目に見えてんだから」
嫌味な笑みを喉奥で転がした玉城が最後の紫煙を深く吸い、灰皿にその穂先をこすりつけた。無残にひしゃげて潰された煙草が、死んだ魚のようにそこで転がっている。
「大路」
そのとき思いがけず名前を呼ばれた。
俺はふらりと顔を上げ、声の主に視線を向ける。
「俺に吠え面かかせるなら、今じゃねえか?」
睨みつけるように俺を射抜いた玉城の瞳は一体なにを意図していたんだろう?それを俺が尋ねるより前に、玉城は踵を返し、さっさと喫煙所を出て行ってしまった。
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