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「千隼は杏樹とどうしたいの?」
「昨日付き合うか聞いたら即振られたけど?」
「あはは!ほんと馬鹿ね、あんた達も」
「お前らだって大概だろ」
高らかな笑い声を響かせる咲綾を横目に睨んだ。
しかし策士な女はどこ吹く風だ。
「杏樹は千隼の気持ちわかってないわよ」
「知ってるよ、そんなの前から」
「なら誤解とかなきゃなにも始まらないでしょ」
「…うるせえな、俺も色々あんだよ」
「杏樹より蜷川なんかのほうが大事なの?」
それって結局過去に執着してるってことになるんじゃない?と咲綾が目尻を細めた。これだから頭の良すぎる女は厄介だ、と身勝手な男の理屈を腹の底で捏ねる。
あんなクソ狸、心底どうでもいい。
悪は成敗されるべきだなんて微塵も思わない。
時代や立場によって正義と不義の境界など常に曖昧に滲むのだ。肯定する気など更々ないが、もしかしたら蜷川や杠葉にも奴等なりの正義のようなものがあったのかもしれない。
それでも俺が今もここに立っている理由はきっと贖罪なんだ。それを過去に対する執着と呼ぶならそうかもしれない。でも俺が執着しているのは過去にあった恋や愛ではなくて、憐れな──とても憐れな孤独だ。無残に傷付けられた深月や霧生の苦悩が、俺はどうしても許せなくて、勝手なエゴを振りかざしてる。
俺はひたすらに、赦せないんだ。
それ以外の行動原理なんて何も持ってない。
身勝手に他人を踏みにじり続けてきた男から俺は生まれてしまったから。
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