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部屋のインターホンを鳴らすとすぐに千隼が扉を開けた。抱えているクライアント数はほぼ互角なはずなのに、この男は昔から抜群に要領がいい。
そんな取り留めもない思考がふと浮かんだのをかき消すように、扉を開けるなりすぐに私の手首を掴んで中に引きずり込んだ千隼が、側面の壁に押し付けるように唇を塞ぐ。
『来んのが遅ぇよ』
『頼まれてあげたのに随分な言い草じゃない?』
『今、そういうのいい』
本当に勝手なことばかりだ、今夜は。
普段行為は身勝手でも、それ以外の場面での千隼は人並みの気遣いは出来る男だった。そうじゃなければ何度も寝たりしない。
『…明日、朝イチで全体会議よ』
『こんな時に萎えること言うんじゃねえよ』
グッと私の腰を掴んで抱き上げた千隼はそのまま部屋の奥へと進み、広々としたクイーンサイズのベッドに私を投げ捨てた。覆いかぶさるように私を組み敷きながら、きちんと締められていた紺のネクタイをゆるめる。
『杏樹、口開けろよ』
『命令すんな、って、いつも…ッ』
『だったら言うこと聞かずに抗えばいいだろ?』
雑に下顎を掴んで私の口を開けさせた千隼がまたキスをしてくる。本気で抵抗するわけもないのに私の両手首を掴み頭上に拘束すると、コートさえ脱いでいない私の腹部をもう片方の手が弄った。
少し前に吸っていたんだろう煙草の香りがする唇が首筋を這う。濡れた熱い舌はそこから徐々に上昇し、耳の淵に辿り着く。淫猥な水音が鼓膜を直接濡らすように響くと、否応なく体の芯が疼いて堪らない。
『強がってみせる割りにチョロいよな、杏樹』
『…ッ、ふ、ざけないで、よ』
『もうドロドロ』
シニカルな笑みが千隼の口元に滲む。
ストッキングをずり下げた手が秘所へと伸びた。
もう何年もの時間をかけてじっくりと私の体の構造を把握した千隼に体は忠実だ。既に呆気なく濡れたそこに埋められた指が蠢くと、体の内側から享楽が絡みつく。
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