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『あっ、う、あぁっ…』
『ここだろ?わかりやすいんだよ、お前』
『ち、はや、ッ、ぁ、ん』
『気持ちいい?』
嫌味なことばかり言うくせに、ねえ。
どうしてそんなに今夜は優しく私に触れるの?
手首を拘束する力は容赦がないのに、肌を滑る指は甚く丁寧で、それは普段私を抱く時の千隼とは乖離した優しさだった。
コートまで着込んでいたはずの服はあっさりと全部取り払われ、丸裸にされた体に切ない愛撫が落とされる。千隼に触れられるたび、肌の表裏を蝕む痺れは酷くなる一方だ。
後ろを向かされた体勢で自分のナカを暴く千隼の熱が眩暈を引き起こす。縋るものを探すように指先はシーツを握りしめ、枕の中に息を吐く。最奥を突き上げるように深く沈む昂ぶりに、ひたすら翻弄された。
『杏樹、こっち向けよ?』
『─…待、って、んッ、やぁあぁっ』
『ははっ、なんだよ、イイとこ当たったろ?』
項垂れるようにシーツに埋もれていた私のお腹に腕を回し、体を持ち上げる。その拍子に今までと違う場所に千隼の熱が入り込むから、チカチカと目の前に星が散った。
体中が千隼の熱に満たされる。
それはどろりと甘く、蕩けるように毒々しい。
『死ぬほどくだらねえな、まじで…』
繋がったままの私を後ろから抱き締めて、首筋に顔を埋める。肌の上を徒に転がる吐息はどこか泣きそうに揺れていて、だから嫌だったのよと胸の裡で呟いた。
聡い千隼は騙されることも出来ない。
目の前の私はどうしたって、私でしかなかった。
本当は違う人に触れたいんでしょう?残念ながら愛されてるのは自分だと、勘違いできるほど私は純情じゃない。千隼はいつだって、少しも渇きを満たせないでいる。
ねえ千隼、どっちだと思う?
可哀想なのはアンタか、それとも、私かしら。
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