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「まあ、なんにせよ千隼は不運だったよな」
「巻き込み事故には他ならないわね」
「あの千隼の元婚約者?になるのか、蜷川の娘は今霧生と一緒にいるらしいな?」
そうみたいね、と軽く頷いて片手を上げる。
すると近くを歩いていた店員がすぐに来てくれたので注文を告げた。総司のパンケーキと、自分にはロコモコ丼。承ってくれた可愛らしい女の子が総司のほうをちらりと気にしてから、そそくさと歩み去ってゆく。
「千隼、お前にはなんか言ってる?」
「それって弱音的な意味で?まさかないわよ」
「なんつぅかさ、千隼みたいな人種って、なんでああも甘え下手なんだろうな?もうちょいしんどそうな顔したってバチは当たらねえだろうに、なんなんだろうな…」
水の注がれたグラスに口を付けながら、総司はどこかうんざりした顔でそう呟いた。男らしい端正なその顔が僅かに憂いを帯びると妙に艶っぽい。
出会った頃から総司は寡黙で無愛想で、代わりにとても誠実だ。心配していると素直に本人に告げればいいのに、何故だかいつも口籠る。弁護士にしては致命的なほど口下手で不器用で正直者な男は、不服そうに口を真一文字に結び、また黙り込むので呆れた。
「千隼みたいな、って、他に誰を含めたの?」
「…杏樹のそういうとこ嫌いだ」
「出会った頃から今も変わらずに思ってるけど総司って、弁護士向いてないわよね?そんな風に優しいうえに口下手で、しかも嘘も下手なんじゃこの先苦労耐えないわよ」
わざと意地の悪いことを言って総司のほうを見つめれば、引き結ばれた口端がほんの僅かに角度を下げたので、機嫌が降下したらしい。もう少し表情に出しなさいよ。
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