06.Carnation

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𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍 「東海医科大の医療過誤訴訟に関しても来月に初公判を控えてるから──」 淀みない玉城の声をワードに書き込む。 性格面では最悪の仕上がりだが、相変わらずその頭脳は明晰だ。玉城の説明は理路整然としており明快で、すっと頭に入ってくる。この丁寧さが何故他人への気遣いには発揮されないのか、甚だ遺憾でならない。 「高知先生の勉強会はどうだった?」 「すごく勉強になりましたよ、さすが医療業界に長くおられるだけあって専門的で、講義の内容も興味深かったです」 昨日、総司と一緒に出席した勉強会は元々玉城の紹介だった。これまで玉城も医療関連業界を中心とした顧客構成だったこともあり、私は玉城が前任で担当していたクライアントを引き継ぐことも少なくなかった。 「ラザロフ製薬は外資だから海堂に渡したが基本俺の担当クライアントは徐々に花栗に引き継いでいく予定だ。まあ、そうは言っても俺の補佐だし今とあんま変わんねえけど」 「どうですか、パートナーに昇格して」 「役立たず共から裁量を奪えて最高の気分だな」 「予想通りの答えで最早安心しますね」 昇格を遂げて以降は誰の下に就くでもなく自分の裁量で好き放題に仕事が出来ると、玉城はまるで水を得た魚のように生き生きと仕事をしている。 どう考えても玉城が誰かの下に収まるようなタマでないことは明白なので、代表の辰巳すら『彼の才能を生かすには時期尚早だとしても昇格させる他ないよねえ』と言わしめたのだから、不遜もここまで突き抜ければ、ある意味才能と言えるのかもしれない。
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