06.Carnation

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結局勝手についてきたらしい千隼と三人で昼時の店に入ると、奥まった四人掛けのテーブル席を案内された。さすが書き入れ時とあって店内は近隣の会社員たちの姿で賑わっている。 香ばしいにんにくとオリーブオイルの匂いが充満する店内は、観葉植物の緑が目に優しい。橙色の間接照明に照らされ、白を基調としたインテリアの輪郭が柔らかに描き出されている。さすが東京の一等地にある店だけあって、内装の細部まで装飾が美しい。 「俺、このミートソースでいい」 「ほんと相変わらずお子ちゃま舌ですね」 「あ?昔から食い慣れた味がパッと浮かぶもんがいいだろ、安心感あって」 「安心感とか求めるタイプでしたっけ?」 「うるせえな、飯の注文ぐらいサクッとさせろ」 「はいはい」 玉城はこう見えて、大層なお子様舌である。総司の甘党といい見た目とのギャップが甚だしいのでちょっと笑ってしまう。 「杏樹なににするか決めてんの?」 「私はその、渡り蟹のクリームパスタにする」 「んじゃあ俺もそれでいいわ」 「あんたは毎度選ぶ気がなさすぎるのよ」 そして千隼もまた食に対する興味は薄い。 一緒に出掛けると大抵選ぶのが面倒だと言って私の注文と被せてくるし、曰く『杏樹の食うもんは大体美味いからそれでいい』と、最早食の好みの話すら成立しない。 「玉城さん、ラザロフ製薬の担当ですよね?」 「それがどうかしたか?」 「あそこ、山陽興業に次いでマザーへの出資額が多いじゃないっすか。なんか社内の動向とか諸々掴んでねえかなと思って」 なるほど、これを聞きに同席したのか。 注文を済ませてすぐ本題を切り出してきた千隼に内心で悟る。玉城も同じくそれを察したのか、柳眉をゆったりと持ち上げながら、尊大な動作で椅子に体を預けた。
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