06.Carnation

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「残念ながらラザロフに関しちゃ法務面は確かにうちの担当だが、経営面はがっつりコンサルが入り込んでて情報統制が敷かれてる。噂レベルなら当然耳には入るが」 「あそこのコンサルってどこでしたっけ?」 「デトロイト&カンパニー」 聞き慣れた社名に一瞬心がざわついた。 しかしデトロイトの顧客など世界中に無数に存在している。安直に自分の元家庭教師と結びつけるのは無意味だし、そもそも真壁は支社長で、実務にはそれほど関与しないだろう。そう思い直して胸騒ぎを掻き消す。 「今の担当者は?」 「織木(おりき)とかいうクソの拝金主義者」 「なんか聞いたことあるな、その名前。どっかで名刺交換とかしたことあったっけ?玉城さんは面識あるんですか?」 その問いに玉城が眉根を寄せた。 黒い両目が肉食獣のように野蛮なひかりを放つ。 「お前、一体なに調べてる?」 「ちょっと色々野暮用がありましてね」 「大手の製薬会社だ、国営の研究施設に出資するのは当然の経営判断だろう。まあただラザロフの本国での評判に関していえば、多少グレーな噂をよく耳にはする」 利益のためなら手段を選ばない営利主義に偏ったその経営理念で、アメリカ本国ではそれなりに危険な橋を渡り、裁判沙汰も起こしてきた企業ではあると。少し声を潜めながらささめいた玉城に千隼がそっと顎を引く。 「それはうちの親父と思想が合いそうですね」 美しく整ったその唇から、渇いた笑みが漏れた。
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