06.Carnation

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𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍 今夜は東京も雪らしい。 オフィスの西側の窓の外に白がちらついている。 これはさぞかし交通機関が麻痺するだろうなと他人事のように考えながら、終わる気配のない雑務の山をちらりと瞥見して溜息を。今夜は千隼に送迎でも頼もうかな。 「まだ帰んないの、杏樹」 「その資料の山が片付いたら帰るわよ」 「忙しいわねえ、私も今日はテッペン超えそう」 「あ、じゃあ総司に送迎頼もうかな?」 「運転手ならあっちよ」 「まだ当面は終わらなさそうねえ」 独立した個人オフィスを抜け出してコーヒーを淹れていたところに、通りがかった咲綾が声を掛けてきた。ふたりして電車通勤な私たちは今夜の帰宅手段をどう確保しようかと話しながら、資料の眠る棚の前でファイルを開く総司を見つけて勝手なことを言い合う。 「千隼に頼むかと思ってたけど総司でもいいか」 「私はもう事前に予約済みだから」 「東京でペーパードライバーしちゃうと乗る気がしないわよね。車使えたら便利な場面なんか山ほどあるのにもったいない」 私も咲綾も、生粋のペーパードライバーだ。 一応免許は持っているけど学生の間に車が必要な場面に出会わず、司法修習時代から今に至るまで多忙を極め続けた結果、車の運転を練習しようなんて思う暇もなかった。だが最近は通勤に掛かる労力軽減の意味で、運転免許の真価を発揮したい気もしている。
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