06.Carnation

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「今夜みたいな日は余計にね」 「明日は新幹線も終日運休らしいわよ」 「東京じゃ雪は異常気象だからね、已むなしよ」 私の隣に並んだ咲綾が暗い夜空からひらひらと降りてくる雪の結晶を見上げ、そう呟いた。基本的に仕事で終電をなくした時はタクシーを利用するけど、今夜はさすがに捕まらないだろう。みんな考えることは同じだ。 「今夜はバレンタインなのにね」 「あ、そっか、完全に忘れてたわそのイベント」 「千隼にチョコあげなかったの?」 「今まで一度もあげたことないと思うけど」 「可愛くない女ねえ」 「なによ、咲綾は総司にあげたの?」 「もちろん」 大喜びで尻尾振ってたわよ、と老獪に微笑んだ。 相も変わらず計算高い女である。 あの無愛想な男が大喜びで尻尾を振る姿なんて想像もつかないけれど、咲綾の前では可愛げのある姿も見せたりするんだろうか?なんかちょっと気味が悪いけど。 「咲綾の前だと結構可愛いとこもあるんだ」 「はは、可愛い?それはないでしょ」 「でもそんな大喜びしてるなんて可愛くない?」 「別に顔はあのまんまよ」 どんな時も無表情は変わらないらしい。 それでも些細な機微から総司の機嫌をはかるのが咲綾は得意だ。私には普段まったく総司の心情は読めないのだけど、咲綾は何かにつけて『今日は機嫌がいい』『今はイライラしてる』などというのだ。でも私にはいつまで経っても総司の情動は窺い知れない。 「私は千隼のほうがよっぽど読めないわよ」 「千隼はわかりやすいでしょ?」 「そんなこと言うの、多分世界で杏樹だけよ?」 「ええ、だってあれは表情豊かじゃん」 「常にへらへらされる方が内面見えづらいって」 「そんなことないけどなあ…」 千隼は普段から表情豊かでわかりやすい。 あまり抑揚はないけど、稀に不機嫌な時もある。
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