06.Carnation

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「…父のこと、まだ信じられませんが、でも山陽興業と蜷川大臣の間にも不正なやり取りがあったと告発されたことは事実です。それを父が知っていて黙認していたとは思いませんが……でも辰巳先生のご心配は、この事務所の代表として尤もなことだと思います」 私はそっと辰巳に視線を向けた。 父の立場を慮る、楚々とした慎ましい娘の顔で。 「私も、もちろん協力は惜しみません」 力強く頷いた私に、辰巳は安堵したように相好を崩した。そこで少し寛いだようにしてソファーの背もたれに背中を預けた辰巳は、普段と変わらぬ声音で語り出す。 「ああ、本当に良かったよ、これで百人力だ」 「でも私でお役に立てるかどうか…」 「今回君を私の補佐に指名したのは今のためでもあったんだ。山陽興業は言うまでもなく大路君のお父上が代表として運営する企業だが、君は彼と仲が良いだろう?」 す、と背筋を冷たい何かが滑り落ちた。 優しげに細まった辰巳の瞳が私を見据えている。 辰巳の意図が──見えた。この役目に私を選んだ理由は花栗の娘だからじゃない。そうだ、辰巳は善良だが思慮深く周到だ。花栗穣一という男が私のことを──〝微塵も愛していない〟と知らないはずがないのだ。 「大路君と君が協力してくれたら、私も嬉しい」 ──辰巳の本懐は、こちらか。 刃物を喉元に突きつけられるような心地がした。 千隼の調査に協力するふりをしながら裏では自分に寝返れと、辰巳は暗にそう告げている。それはあまりにも身勝手で──残酷なくらい私の計略と同じ目論見をしていた。 「ええ、では、ご指示のままに」 ──昏い思惑の糸がまた、複雑に絡まった。
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