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3 湯けむり熟女
結局、あれからショウ様はどこかへ行ってしまい、何事もなく夢から出ることができた。
無自覚魅了沼から無事抜け出せたのはいいが、ショウ様はいつも眠たげで、隙あらば眠ろうとするので、阻止して勉強や訓練を促すのが、私の役目になりつつある。
しかしショウ様はどれにもやる気を見せず、成績もそれに比例してよろしくはなかった。いわゆる落ちこぼれで、影で落ちこぼれ王子と言われていると、その時に初めて知ったのだ。
魔力も(起きている時は)皆無で、勉強も運動も得意ではない。ショウ様が自分に見向きもしないと仰るのは、そういう所からくる自己肯定感の低さだと知る。
「……ショウ様? とりあえず、その膝を抱えて座るのは、魔族としての威厳を示すためにも、控えませんか?」
訓練を「もう嫌だ」と抜け出し部屋に帰ってくるなり、ショウ様は窓際に置いた椅子の上に膝を抱えて座った。まがりなりにもショウ様は王子、これから人の上に立つ事もあるでしょう。だから……。
「って! 眠らないでください!」
私の言葉を無視して眠ろうとしていたショウ様は、私の大声に不満そうに口を尖らせた。今は現実なので、その尖らせた唇が可愛いなと思うくらいで、襲いたくなる衝動はない。
「勉強も運動も嫌いだから、僕は寝るしか能がないの」
邪魔しないでよ、とこちらを恨めしそうに見るショウ様。寝たら寝たで大変なんです、私が。
「でしたら、この部屋でもできること……読書はどうですか?」
私がそう提案すると、ショウ様は大きな目を更に大きくして驚いたようだった。そしてそれはいいかも、と続き部屋の書斎に入っていく。
ふう、これで少しは勉強の楽しさに目覚めてくれれば良いですけど。そう思っていると、ショウ様が一冊持って戻って来られた。
「どのような本ですか?」
見た目にはそんなに分厚くなく、どちらかというと薄い本だ。装丁もそんなに凝ったものではなく、というか、手作り感満載の本……。
「お母様が、『淫魔たるもの、いついかなる時も誘惑する心を忘れてはならない』って。これはその教則本だって」
……嫌な予感がする。いや、勉強しようというショウ様の姿勢は大変素晴らしいけれど。
私はショウ様に断って、その本を見せてもらった。
【湯けむり熟女シリーズ~温泉宿の女将と女子大生とぼく~】
──子供になんて本を読ませようとしてるですか!! しかもシリーズ物!? それに女将と女子大生ってどういった種族ですか!?
ツッコミどころ満載ですが、私は頭を押さえてその本をショウ様に返した。作者はオコト……ショウ様のお母上だ。淫魔が趣味で官能小説書いてるんじゃない!
「リュートも読みたいの?」
「いえ、私は結構です……」
ショウ様の言葉に疲れた感じで返事をすると、ショウ様は少し寂しそうな顔をして本を開いた。いや、読むんですか、それ。そしてオススメを断られたみたいな顔をしないでください。
私はショウ様の読書の邪魔にならないよう、近くに控えることにする。そっと離れようとすると、急に足元がふらついた。
あー……、何か覚えあるこれ。
スローモーションでひっくり返る景色に、ショウ様の方から魔力を感じる──ああやっぱり。
私はまた、ショウ様の夢の中へと誘われたのだ。
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